美山園は何年ぶりだろう。施設に入ってもう六年くらい経つが、その間、数回しか来ていない。おそらく二年ぶりくらいだろう。
受付のベルを鳴らして、人を呼んだ。田舎の施設なんて、受付専用の者はいない。
中からジャージー姿のお姉さんが出てきた。
「すみません、いつもお世話になっております。藤吉明子の孫です」
「そうですか、ありがとうございます」
「東京から帰ってきたんですが、面会をお願いできますか?」
そう言った途端、お姉さんの表情が曇った。
「申し訳ございません。現在、感染予防対策のため面会謝絶なんです」
衝撃的な一言だった。
「家族でも駄目ですか?」
「駄目です」
「アクリル板ごしでもいいので。遠くからでもいいので。駄目ですか?」
「申し訳ございませんが、駄目です。ご本人だけじゃなくて、ほかの家族にもご迷惑がかかるので」
そう言われたら抵抗するわけにもいかない。僕はいそいそと退散した。
「どうした?」えみが心配そうに見つめる。
「感染症対策で面会謝絶です」
「まじで? 田舎なのにしっかりしてるね」
「そうですね。逆に言えば、しっかりした施設で安心しましたけど」
「じゃあ、『祖母の施設を訪問』はクリアできず?」
「いや、確かにお見舞いはできていないですが、訪問はできたので。一番の目的は、違うんです」
僕はリュックから紙封筒を取り出した。さきほど引き出した、おろしたてほやほやの現金だ。目の前の犯罪者まがいの大女に見せてよいのか迷いつつも、二百の札束を見せてしまった。
「すごい! もう全財産よね。素敵よ」えみが満面の笑みをした。
「少しちょうだい」えみが声を高めて言う。
「なんでやねん」僕は思わず関西弁で突っ込んだ。
「これは大切なお金なんですよ」
しみじみとつぶやき、持っていたビニール袋に紙袋を入れた。そしてまた施設に入っていく。
「すみません、先ほどの者です」
するとまた同じ女性が出てきた。
「何でしょうか?」
「面会謝絶については了解しました。これ、気持ちばかりの寄付です。祖母と、この施設のためにご活用ください。今後ともよろしくお願いいたします」
深々と一礼して、立ち去った。
「待ってください」従業員に声をかけられても、無視した。
すぐに駆けだして待たせていたタクシーに乗り込んだ。
「運転手さん、出してください!」
受付のベルを鳴らして、人を呼んだ。田舎の施設なんて、受付専用の者はいない。
中からジャージー姿のお姉さんが出てきた。
「すみません、いつもお世話になっております。藤吉明子の孫です」
「そうですか、ありがとうございます」
「東京から帰ってきたんですが、面会をお願いできますか?」
そう言った途端、お姉さんの表情が曇った。
「申し訳ございません。現在、感染予防対策のため面会謝絶なんです」
衝撃的な一言だった。
「家族でも駄目ですか?」
「駄目です」
「アクリル板ごしでもいいので。遠くからでもいいので。駄目ですか?」
「申し訳ございませんが、駄目です。ご本人だけじゃなくて、ほかの家族にもご迷惑がかかるので」
そう言われたら抵抗するわけにもいかない。僕はいそいそと退散した。
「どうした?」えみが心配そうに見つめる。
「感染症対策で面会謝絶です」
「まじで? 田舎なのにしっかりしてるね」
「そうですね。逆に言えば、しっかりした施設で安心しましたけど」
「じゃあ、『祖母の施設を訪問』はクリアできず?」
「いや、確かにお見舞いはできていないですが、訪問はできたので。一番の目的は、違うんです」
僕はリュックから紙封筒を取り出した。さきほど引き出した、おろしたてほやほやの現金だ。目の前の犯罪者まがいの大女に見せてよいのか迷いつつも、二百の札束を見せてしまった。
「すごい! もう全財産よね。素敵よ」えみが満面の笑みをした。
「少しちょうだい」えみが声を高めて言う。
「なんでやねん」僕は思わず関西弁で突っ込んだ。
「これは大切なお金なんですよ」
しみじみとつぶやき、持っていたビニール袋に紙袋を入れた。そしてまた施設に入っていく。
「すみません、先ほどの者です」
するとまた同じ女性が出てきた。
「何でしょうか?」
「面会謝絶については了解しました。これ、気持ちばかりの寄付です。祖母と、この施設のためにご活用ください。今後ともよろしくお願いいたします」
深々と一礼して、立ち去った。
「待ってください」従業員に声をかけられても、無視した。
すぐに駆けだして待たせていたタクシーに乗り込んだ。
「運転手さん、出してください!」