ほとんど寝ながらお菓子を食べるえみを眺めながら、思えば不思議な旅になってきたなと思った。姉でも彼女でもないこんな大女と連泊することになるとは思わなかった。

 僕らは長野駅に降り立った。通いなれた駅だが、やはり外は肌寒かった。当たり前だけど、雪国なのだ。
 駅のロータリーでリッチにタクシーを拾った。
 十分ほど走ると、光雲寺に着いた。少しずつ桜のつぼみが感じられるお寺。そこは我が家の菩提寺で、先日、父の葬式の際にもお世話になっていた。
 裏庭の墓地を訪れた。我が藤吉家の墓石は、三角の帽子をかぶったような形をしていて、やや大きい。
「ここが、お父さんやお母さんの眠るお墓ね」背後でえみが見守っていた。
 僕は墓石について土を少し手で払いながら、途中で買ってきた線香にマッチで火をつけた。藤吉家の墓は周りにいくつか分家の墓もあり、少し歩いてすべての墓に線香を置いていった。
 最後に中央の墓石に線香を置いた。そのときになって、お供え物を何か買ってくればよかったと思ったが、遅かった。じゃがりこよりも、そちらを買うべきだった。
 するとえみが近寄ってきて、墓石にまだ残っていたじゃがりこを備えた。
 そんなもの置くな、と言おうかと思ったが、やめておいた。そういえば母も好きだった。
 僕は手を合わせた。父と母に向けて、静かに合掌する。ただただ、冥福を祈った。自分の報告や誓いは、一切しなかった。とにかく心配性な両親だ。無用な心配は絶対にかけたくなかった。思い出も蘇らせなかった。蘇るとつらくなる。だから僕は、ただただ冥福を祈った。
 数分して、手をほどいた。ゆっくりと立ち上がり、お墓を後にする。
「終わった? 満足?」えみが微笑んできた。
「満足です」
「達成したね。『父と母の墓参り』」

 それからまたタクシーを捕まえて、国道を走った。途中、郵便局に寄った。窓口営業時間ギリギリで滑り込み、現金を引き出した。ATMでは出せない、二百万円を引き出した。これでほぼ貯金は使い果たしたことになる。
 そしてまたタクシーに乗り込み、平地から山沿いになるまで進んでいく。少し登ったところに目当ての施設があった。
 美山園、と大きめの看板が立っている。
「『おばあちゃんの老人ホームを訪問』ね?」えみが優しく訊いてきた。
 僕は静かに頷いた。