でももう最後の長野だ。この期に及んでバスを使うほどバス好きではない。当然のように新幹線を選択して、思い切ってグリーン席にすることにした。でも予約しようとすると、グリーン車が最上位席ではないらしい。そのうえに、グランクラスというものがあること。飛行機で言うとファーストクラスだろうか。とんでもない席を作ったものだ。またこうして格差が生まれる。江戸時代の士農工商みたいなカテゴリーで分断される日も近いかもしれない。
 グランクラスの座席はとても白かった。美しい白だ。長野や北陸の雪をイメージしているのかもしれない。そして空席率が高くて静かだった。貸し切り状態の座席にどかっと座った。
「シートがふかふかよ」えみが満足そうにシートを撫でる。
「金持ちっていいですね」僕はしみじみとつぶやいた。みんなが我こそはと金持ちになりたがる気持ちもわかる。金持ちだからといって幸せとは限らないが、金を持っていれば快適な暮らしは約束される。
「車内販売来たら、いろいろ買おうね。まず、じゃがりこ」
 グランクラスに座っても、買うのはじゃがりこらしい。もはやカニとか松茸とか食べなくても、毎日じゃがりこでいいんじゃないかと思えてくる。
「わたしね、長野行くの楽しみなの。軽井沢しか行ったことないからさ。ショッピングしたら楽しかったよ」
 出た、軽井沢。東京からの玄関口であり、最大の観光地、軽井沢。軽井沢のおかげで都内の方が長野に来てくれるのだと思いつつ、軽井沢のせいで長野のそれ以外の地域まで来てくれないとも言う。
「長野は良いところですよ。自然が豊かで空気が美味しい。そして人が少ない」
「人が少ないって、ディスってるじゃん」えみが大笑いをする。
「いや、誉め言葉ですよ。皮肉じゃないです。東京は、人が多すぎですよ。掃いて捨てるほどいる。明らかに過剰ですよ。暗闇の倉庫で人工飼育されるニワトリみたいなものです。これじゃあ、一定数が病みますよ」
「へぇ、そうかな。東京しか知らないからわからないけど」
「両方住んでみればわかりますよ。人の好みによるでしょうけどね」
 長野まで新幹線で一時間半ほどだった。その間、車内販売が四回ほど通ったが、そのうち三回は買った。じゃがりこ、おにぎり、サンドイッチなど。すべてえみに買い与えた。販売員のお姉さんからは、とんでもないカップルと思われていただろう。