「高校時代に死のうとしたことがあるんですよ。昔から頭は良かったんですが、高校では勉強についていけなくて。友達もいないし、スポーツは苦手。言うまでもなく昔から不細工でした。それだけなら、2ちゃんねるに著名人の悪口でも書いて生きてろって話なんですけど。おまけにめちゃくちゃ病弱で。遺伝子性の病気です。体の結合組織が弱いみたいなんです。心臓が悪いとか、肝臓が悪いではなく。結合組織って、要は細胞と細胞の結合をする組織なわけだから、つまり全部悪いんです。心臓血管も肺も破れやすく、骨も曲がりやすいし折れやすいんです。シンプルに障害者ですよ。高校時代に続けて二回ほど手術して、死にかけました。でも、誰も教えてくれなかったんです、その病気について。主治医が不用意にカルテを見ていて、それが目に入ってわかっちゃったんです。マルファン症候群という文字が。しかも、ご丁寧に“未告知”とまで書いてありました。未告知の疾患をカルテの盗み見で告知しちゃうなんてね。何かのどっきりかと思いました。でもすぐにケータイで病気について調べるとドンピシャで。どこからどう見てもその病気だとわかり、納得しました。昔からなぜこんなに病弱だったんだろうって不思議でしたけど、納得しました。遺伝子が悪いなら、しょうがないですよね」
 青光りする天井を眺めながら、僕は独り言のように話していった。
「もっと早く教えてほしかったんです。昔から僕は真面目にコツコツ勉強するタイプで、将来は研究者になろうと思っていました。でも、方針変更せざるを得なくなった。なぜなら研究者は長生きするのが前提だと思ったからです。でもなれない。この病気では長生きが難しい。そこで夢は諦めました。高校時代の二度の手術で体がボロボロになり、精神も病みました。それから高校は行かなくなり、引きこもりになって毎日死のうと考えていました。でも死ねなかった。死ぬのが怖いというわけじゃないと思うんですけど、いろいろ考えすぎて死ねなかった。自分が死んだら親が悲しむとか、世間が憐れむとか、いろんな意味で死ねなくなっていた。そして、かろうじて生き延びてきてしまって、スレスレのラインで飛んでいるんです」
「周りを考えてしまうタイプね。周りのことを考えてしまったら、死ねないよ」えみがつぶやいた。