えみは冷蔵庫から缶チューハイを取り出し、真昼間から飲み始めた。煙草を吸いだすより行儀が良いと思いながら、僕は荷物を考えた。
 持っていくのは、通帳、印鑑、ノートパソコン、薬くらいか。歯ブラシやアイマスクなどトラベルグッズと、大学受験から愛用している太宰府天満宮のお守りも持った。改めて考えだすと、そのくらいしかなかった。そして、えみが二本目の缶チューハイを飲みながらテレビを見だしたのと確認して、こっそり玄関に向かった。靴箱に一部隠しているものがあった。アダルトDVD、ではない。それは少し前に処分した。厳密に言うと、データ化して処分した。
 靴箱に隠していたのは、元カノとの思い出の品だ。もう八年くらい前になるか、僕にも信じられないことに彼女がいた。当時もらったハガキや手紙、ハンカチなどを保管していた。やはり物持ちが良くて、たぶんやりとりしたすべてを残さず保管している。しかももらった順に並べてある。
 彼女とは大学院時代、シナリオの教室で出会った。ドラマをほとんど見ない人間がなぜいきなりシナリオ教室に通いだしたのか。そのころから頭がおかしくなっていたように思うが、思い立って通い始めた。そこは少人数のクラスだった。彼女とはたまたま、帰る電車が同じで一緒に帰ってから、仲良くなり、いつの間にか付き合い始めた。
 二十一世紀になってから何年も経っていたが、彼女はよくハガキを送ってくれた。得意のイラスト付きで。印象的だったのは、二通目のハガキがポストから取り出すとしわくちゃだったことだ。そういう演出かと思ったが、彼女はそんなことはしていないという。配送中に折れ曲がってしまったらしい。それで当時は仕方ないなと思っていたが、後から考え直すと明らかに違っていた。年賀状でもなんでも、折れ曲がって届いたことはない。ハガキとはいえ、降り曲がったら台無しなのだ。しかも二通目は折れ曲がるなんてレベルではなく、本当にくしゃくしゃにして、元に戻した感じだった。つまり、人為的な仕業だ。
 おそらくハガキの内容を見て、配達人とかが嫉妬で怒り狂ってしわくちゃにしたのだろうと思う。普通ならありえないが、それを現実にさせるくらい、ハガキの内容が愛に満ち溢れていた。一言で言うと、バカップルだった。もう恥ずかしくて読み返せないが、そんな内容だった。