「そうですね。ではどうしますか?」すぐに折れることにした。おそらく、折れなければずっとこの押し問答が続くことになる。それこそ時間の無駄だ。
「ナンバー3は中野のお店よ」えみがスマホを自慢げに見せてきた。
 そういえば、近くの行列のできる塩ラーメン店が三位にランクインしていた。
「決まりですね。そうしましょう」僕が明るく答えた。
 するとえみは、僕のリストにボールペンで追記した。
『食べログナンバー1レベルのお店でラーメンを食べる』
 リストの改竄に成功した。これがまかり通るならもう何でもありである。プロレスのようにルールがあるようでないフェーズに突入した。
 とりあえずお腹も空いてきたので着替えてすぐ出発した。徒歩十分ほどで目当ての店に着いた。平日の昼の混み具合はどうかと思ったが、十人程度だった。意外とすぐ食べられそうだ。
 すぐに並ぼうとした僕は肩を鷲掴みにされ、近くにあったコンビニに連れていかれた。そこでスナック菓子を大人買いさせられた。それを片手に、最後尾に並んだ。
 早速、じゃがりこを食べ始めるえみ。なかなか見たことがない。ラーメン屋で並びながらジャンクフードを貪る人。
 えみが続いてベビースター、裂けるチーズと食べ終えたころ、前はもう五人ほどに減っていた。さすがラーメン屋、回転は速いらしい。
「結構並ぶね。買いだめしといて良かったわ」
 えみがしみじみと言う。昭和初期の戦車みたいに燃費が悪いらしい。
 その後、えみがチョコクランチ、パイの実を食べ終えたころ、ようやく店内に入ることができた。十席ほどの狭いカウンター席で、二人でおすすめの塩ラーメンを注文した。
 出てきた塩ラーメンは、純粋に綺麗だった。透き通ったスープに、チャーシュー、卵、小松菜などが気持ちよさそうに浸かっている。生まれ変わったらこの具材になりたいくらいだ。僕はすぐにスマホで写真を撮った。なんと映える写真か。
 すると、えみが器を持ってこちらに微笑んできた。
「撮って撮ってー」
 えみが決め顔をしてきた。正直人物が被写体に入ると途端に映えなくなるのだが、仕方ないので撮影した。なんだろうこのバカップルは。
 撮影もそこそこにして、僕らは早速食べ始めた。想像を超えてきた。見た目通り、すっきりして深みのあるスープに、太いちぢれ麺がよく合う。たしかに並んででも食べたいラーメンだ。