「日本赤十字社、ユニセフ、国境なき医師団、あしなが、この四つくらいでいきましょうか」
 振込先を指定され、僕は振込作業を行う。恐ろしいことに僕が目星をつけていた団体もそんな感じだった。しかし、ATMだと振込限度額があることを知った。一団体あたり百万円しか振り込めなかったが、銀行をいくつかはしごして振り込んだ。甥っ子分は姉の口座に五十万円ずつ振り込んだ。
 一時間もせずに資産が半減した。
「偉いね。少し見直したよ」
 えみが満面の笑みで言う。僕も結構達成感があった。僕が汗水たらしてボロボロになりながら貯めてきたお金。それが誰かの役に立つのであれば、無駄ではない気がした。今ようやくわかったが、お金は自分のためだったり、特定の誰かのためではなく、不特定多数の困っている人のために使うのが一番気持ちがよい。自分の中に僅か残っていた善良な部分を感じ、気分がよかった。
「じゃあ、帰りましょう」
 えみが上機嫌で言う。それは気分が良いだろう。振込を待っている間、コンビニでビールをしこたま買って立ち飲みしていたのだ。もちろん僕のお金で。
「どこへ帰るんですか?」
「決まってるでしょ、あんたの家よ。言ったじゃない、彼氏と喧嘩したって。帰る場所ないのよ」
 えみにそう言われ、僕はもう反論しなかった。僕は捕虜のように黙りながら大人しく連行されていった。


 東中野のボロアパート。六帖あり、古いけど狭くはないと思っていたが、えみが来たら途端に狭くなった。中央のこたつに巨体が鎮座すると圧迫感が半端なく、室温も上昇している。
「何か食べるものないの?」えみが周りを見渡して言う。先ほどまで松茸フルコースを僕の分まで堪能していたはずだが、もう消化してしまったらしい。世界が食糧不足になるわけだ。
 僕は仕方なくストックしてあったポテトチップスと大皿を差し出した。
「コンソメパンチ、好きなんですよ」
 えみはすぐに袋を裂き、そのまま一気飲みのように口に流し込み始めた。大皿を渡せば共有してくれるなんて発想が甘かった。この世はアフリカのサバンナのように食うか食われるかと思ったほうがいい。
 ものの三十秒ほどで一袋を平げてしまった。袋は綺麗に折りたたみ、それを大皿に仕舞った。そういうための入れ物ではないのだが。
「もっとないの?」当然のようにえみが言う。