全部やって駆け抜けろ

「『イケメンになる』って何? 『髪の毛フサフサ、白髪なくす』って何? 今更ビジュアル整えてどうすんの?」
「ずっと不細工を売りにしてきたので、最後くらいイケメンになりたいんですよ」
「『二十四時間連続で寝る』って、何? いきなりチャレンジ企画?」
「睡眠は三大欲求の一つです。最後くらい、思いっきり満たしたいです」
「『SNSで出会う』って何? 出会ってどうすんの?」
「人生は人と人との出会いですからね」
「『ナンパする』って何? してどうするの?」
「偶然その日その場所に居合わせるという奇跡を楽しみたいんですよ」何を言っているんだろう。
「『露出する』って何? そんな願望あるの?」
 反論できない。
「『自分のチンポを舐める』って何? 舐めてどうするの?」
 何も言えねえ。
「エンディングノートって、その人の人となりが出るよね」
 えみがうなずきながら言う。頼むから真面目に語らないでほしい。茶碗蒸しでも食べながら話してほしい。
「あんたのリストって、歪んだ欲望を満たすものが多いね」
 性犯罪者みたいな言い方はやめてほしい。でも確かに性犯罪まがいのことを書いているので、何も言えねえ。
「最後くらい、社会に貢献しようとか、そういうものってないの? ゴミ拾いするとか、街の落書き消すとかさ」
「『慈善団体に多額の寄付をする』ってのがありますよ?」
「寄付ねえ。大人が考えそうなことだけど、まあいいわ」
「『甥っ子に多額のお年玉をあげる』ってのもあります」
「それいいじゃない。素敵だわ」
 たまに褒められるとすごく嬉しい。完全に術中にハマっている。
「その二つ以外、却下ね」
 えみはノートに挟んであったボールペンでリストに×をつけていく。
「ちょっと待ってくださいよ」と言っても聞かない。×が増え続けていく。命が削られるようだ。
「『キャバクラで豪遊』はもうクリアね。わたし、元キャバ嬢だから」
 驚愕の事実。しかし、こうやって手玉に取る感じ、確かにキャバ嬢の素質がありそうだ。
「さ、それならすぐに実行ね」
 えみが立ち上がり、出る準備をし始めた。僕は慌てて茶碗蒸しをかき込む。ただ、えみにほとんど食べられていたので、あまり慌てる必要はなかった。
 会計はおよそ二万。さっとキャッシュで払うと、近くの銀行に連行された。ATMの前にて、えみからスマホの画面を差し出された。