振りかぶった張り手は放物線を描き、僕の顔面を切り裂いた。世界が回り、一筋の光が見えた。きっと三途の川というのはこういう光景を言うのだろう。などと思っていたら、綺麗な空が見えた。僕はコンクリートに横たわっていた。
「大丈夫?」えみが加害者ながら心配そうに見つめてきた。きっと轢かれて介抱されるときはこんな気分なのだろう。
恐る恐る左手で頬を触ると、感触があった。吹っ飛んではいなかった。
「ごめんね。咄嗟にやっちゃった。でも十万は十万よ。仕返ししたら減額とかいう話ではないしね」
鬼だと思ったが、僕は気前よく十万を手渡しした。
「ありがとう。お詫びに、なんか美味しいもの食べにいきましょう」
えみが柔和な笑みを浮かべた。僕も微笑んだが、頬が痺れるほど痛かった。
「いわゆるエンディングノートってやつねー。いま流行ってるもんね」
リストの話をしたら、えみは興味なさそうにつぶやいた。僕の一世一代のプロジェクトだが、大したリアクションが引き出せず、ただ流行に乗った奴と思われた。
「これが松茸? エリンギみたい」
えみは松茸のステーキを食らいながらつぶやく。じゃあエリンギ食ってろよ、とは言えない。松茸のステーキと言いつつ、さすがにステーキだけでは主役を張れなかったのか、牛肉もある。完全に主役は牛肉だ。
「これが土瓶蒸し? 器が高いだけじゃない?」
えみがもの珍しそうに土瓶を眺める。じゃあバケツで食ってろよ、とは言えない。
えみと銀座の高級料理店にやってきた。目の前には松茸のフルコース。うちより広い和室で二人きりのディナーだ。
「そのリストってやつ見せてよ」
えみが微笑みながら言う。絶対見せたくない、と思いつつもノートを差し出した。不思議な包容力があり、何でも見せられる。今なら肛門見せろと言われてもすぐ披露するだろう。
薄汚れたノートを見ながら、えみは松茸ご飯を食らう。気づいたら僕のご飯まで食べている。そして時折、んふっ、と言いながら、ページをめくる。
渾身のリストだが、鼻で笑われている。ただの、ご飯のおかずくらいにしかなっていない。
「あんた、結構やばい人ね」
えみがまじまじと見つめてきた。やばい人にやばいと言われるほどやばいことはない。
「どこがですか?」素知らぬふりをして返事する。
「大丈夫?」えみが加害者ながら心配そうに見つめてきた。きっと轢かれて介抱されるときはこんな気分なのだろう。
恐る恐る左手で頬を触ると、感触があった。吹っ飛んではいなかった。
「ごめんね。咄嗟にやっちゃった。でも十万は十万よ。仕返ししたら減額とかいう話ではないしね」
鬼だと思ったが、僕は気前よく十万を手渡しした。
「ありがとう。お詫びに、なんか美味しいもの食べにいきましょう」
えみが柔和な笑みを浮かべた。僕も微笑んだが、頬が痺れるほど痛かった。
「いわゆるエンディングノートってやつねー。いま流行ってるもんね」
リストの話をしたら、えみは興味なさそうにつぶやいた。僕の一世一代のプロジェクトだが、大したリアクションが引き出せず、ただ流行に乗った奴と思われた。
「これが松茸? エリンギみたい」
えみは松茸のステーキを食らいながらつぶやく。じゃあエリンギ食ってろよ、とは言えない。松茸のステーキと言いつつ、さすがにステーキだけでは主役を張れなかったのか、牛肉もある。完全に主役は牛肉だ。
「これが土瓶蒸し? 器が高いだけじゃない?」
えみがもの珍しそうに土瓶を眺める。じゃあバケツで食ってろよ、とは言えない。
えみと銀座の高級料理店にやってきた。目の前には松茸のフルコース。うちより広い和室で二人きりのディナーだ。
「そのリストってやつ見せてよ」
えみが微笑みながら言う。絶対見せたくない、と思いつつもノートを差し出した。不思議な包容力があり、何でも見せられる。今なら肛門見せろと言われてもすぐ披露するだろう。
薄汚れたノートを見ながら、えみは松茸ご飯を食らう。気づいたら僕のご飯まで食べている。そして時折、んふっ、と言いながら、ページをめくる。
渾身のリストだが、鼻で笑われている。ただの、ご飯のおかずくらいにしかなっていない。
「あんた、結構やばい人ね」
えみがまじまじと見つめてきた。やばい人にやばいと言われるほどやばいことはない。
「どこがですか?」素知らぬふりをして返事する。