「花火大会のとき、南はおれにフラれたくらいで死なないって言ってたけど……。おれは南に振り向いてもらえなかったら死ぬかもしれない」

真顔でそう言うと、南が困ったように眉尻を下げた。

「ほんと、勝手ですよね。梁井先輩」
「自覚はある」

即座に肯定すると、南がふっと苦笑いした。

「だったら、仕方ないですね」

南がおれの右手をつかんで引っ張る。ガードレールから歩道に飛び降りたおれを受け止めてくれた南の体は思ったよりも細くて頼りなくて。おれは初めて、ほんとうの彼女に触れた気がした。触れたら今度は、離したくないと思った。

だけど、南はどうだろう。勝手でどうしようもないおれのことを、もう一度好きになってくれるだろうか。

明るい髪色よりも落ち着いた髪色のほうが似合うこと。濃いアイメイクなんかしなくても元々二重の綺麗な目をしてること。照れて赤くなった顔が可愛いこと。

おれに見えてる南はまだほんの一部で。今まで知ろうとしてこなかった南のことを、今度は全部、ちゃんと知りたい。

もしもまだチャンスがあるのなら……。

おれはもう一度、君の好きな人になりたい。

fin.