千鶴子の歌謡日記

 そう、それはある日のゆうまぐれ
 昼と夜とに不格好に引きちぎられ
 継ぎはぎされた時の谷間
 ああ、飛び去る時の刻みの喘ぎ
 お化け煙突に挟殺された夕陽の断末魔

 電車は芥川の人生トロッコ
 誰もかれもが無心に揺られ
 赤子のように首を振る
 首を縊られたテルテル坊主のように

 時の谷間の逆断層に
 ホワイト・シャツの
 地味なネクタイの男が揺れる
 ザンバラ髪から不快な整髪料の臭い
 黒い堅牢な書類ケースを手に
 ムッとする体臭を振り撒く
 その毅然とした屹立
 ああ、その男から語りかけられたい
 淋しさとは何か
 肉塊で語合いたい
 寂しさとは何か

 ――あなたはとても寂しい思いをしたことがありますか?
 ――ええ、あります。寂しくて、寂しくてたまらないことがよくあります。でも、わたしは、その寂しさに苦しみながらも、それを求めているのです。なんとか自分を変えようとしました。でも、どうにもならない不可抗力なのです。寂しさを感じるたびに命を削られる思いがします。でも、どうしようもないのです。どうしようも・・・助けてください。この哀れなわたしを。ねえ、おねがいです。あなたもわたしの寂しさを求めているのではないのですか?
 ――・・・
 ――いいえ、そうやって首を横に振っても、あなたもわたしと同様、寂しくてならないのです。あなたのワイシャツは、あなたの野心に似て、白く堅く、あなたの身を守っていますけれど、あなたの心の虚しさを紛らわしてくれはしません。
 ――・・・
 ――ね?そうでしょう?わたしの言っていることは当たっているでしょう?違うといったら、それは嘘になりますよ。その黒い瞳と長いまつ毛の瞳にかかる影が、あなたの内心の空虚を物語っています。
 ――・・・
 ――どうか、どうか、今宵一晩だけ、わたしの寂しさを、あなたの寂しさで充たしてください。後生ですから・・・
 ――・・・