「私を出して 私を出して
早く 早く 早く」
少女は少年に聞いた
「なんで閉じこめられているの」
だけど少年は黙っていた
少女は魅入られていた
長い髪をした少年の瞳
少女は少年を信じて
古い牢獄の扉を開いた
そのとき声が 神父の声が
下の方から聞こえてきた
「少年は悪魔 少年は悪魔
悪魔 悪魔 悪魔」
少女は少年に抱かれた
「これでもうあなたは救われた」
だけど少女は倒れていた
八月二十日
田舎に行く。能生で一日泳いで、翌日、小谷温泉に行く。直満さんがサニーのライトバンを運転して、わたしと祖父と祖母の三人が同乗した。姫川の渓流をフォッサマグナに沿って上流へと遡行した。途中幾度も川底へ転落しそうになって、そのたびにわたしは大声を上げた。直満さんは、それを楽しんでいたようだった。直満さんとは、東京で一度会ったことがある。東京で住み込みで働いていたが、すぐ帰郷した。墨田区の町工場で何があったのだろう。そこで、里村龍一の『望郷じょんから』のような歌が生まれる。
夢破れ 身も心も萎えて
そぞろに
涙溢れるばかり
昔歩いた
別れの岸を
今は小舟で
辿って揺れる
夢いだき 出掛けて見た街で
無くした
物は数え切れない
手紙に書いた
憧れだけが
胸に疼くよ
立ち枯れたまま
時遅く あの娘も嫁ぎ
想い出
泪流れて止まず
昔仰いだ
別れの空に
今は霞が
かかって靄る
ふるさとよ 我が心をいだけ
傷つき
折れた体を癒せ
俺は一度も
忘れていない
山よ河原よ
鎮守の森よ
小谷温泉の老主人は、祖父の顧客で、祖父は掛け軸を一幅持って行った。
温泉と言っても旅館は数えるほどもない。一軒しかないのかもしれない。廊下は山の傾斜に沿って傾き、鴨居は敷居と平行でなく、畳はいびつに歪んでいた。
直満さんの両親は、定職を持たず、各地を転々としていた。本人は口にしないが、恵まれた青春を送らなかったようだ。そこで、尾崎豊の『街角の風の中』のような歌が生まれる。
早く 早く 早く」
少女は少年に聞いた
「なんで閉じこめられているの」
だけど少年は黙っていた
少女は魅入られていた
長い髪をした少年の瞳
少女は少年を信じて
古い牢獄の扉を開いた
そのとき声が 神父の声が
下の方から聞こえてきた
「少年は悪魔 少年は悪魔
悪魔 悪魔 悪魔」
少女は少年に抱かれた
「これでもうあなたは救われた」
だけど少女は倒れていた
八月二十日
田舎に行く。能生で一日泳いで、翌日、小谷温泉に行く。直満さんがサニーのライトバンを運転して、わたしと祖父と祖母の三人が同乗した。姫川の渓流をフォッサマグナに沿って上流へと遡行した。途中幾度も川底へ転落しそうになって、そのたびにわたしは大声を上げた。直満さんは、それを楽しんでいたようだった。直満さんとは、東京で一度会ったことがある。東京で住み込みで働いていたが、すぐ帰郷した。墨田区の町工場で何があったのだろう。そこで、里村龍一の『望郷じょんから』のような歌が生まれる。
夢破れ 身も心も萎えて
そぞろに
涙溢れるばかり
昔歩いた
別れの岸を
今は小舟で
辿って揺れる
夢いだき 出掛けて見た街で
無くした
物は数え切れない
手紙に書いた
憧れだけが
胸に疼くよ
立ち枯れたまま
時遅く あの娘も嫁ぎ
想い出
泪流れて止まず
昔仰いだ
別れの空に
今は霞が
かかって靄る
ふるさとよ 我が心をいだけ
傷つき
折れた体を癒せ
俺は一度も
忘れていない
山よ河原よ
鎮守の森よ
小谷温泉の老主人は、祖父の顧客で、祖父は掛け軸を一幅持って行った。
温泉と言っても旅館は数えるほどもない。一軒しかないのかもしれない。廊下は山の傾斜に沿って傾き、鴨居は敷居と平行でなく、畳はいびつに歪んでいた。
直満さんの両親は、定職を持たず、各地を転々としていた。本人は口にしないが、恵まれた青春を送らなかったようだ。そこで、尾崎豊の『街角の風の中』のような歌が生まれる。


