とハムレットが語ったように、宗教的な発想の独壇場であった。宗教にとっては、誰も実証できない神秘の事柄であることが重要だ。そうした宗教は、ガリレオ・ガリレイの登場に象徴される科学の台頭により、次第にその権力の領域を侵食され始めた。天動説の崩壊、処女受胎への懐疑、イエス・キリストの復活への疑惑、チャールズ・ダーウィンの『種の起源』による神の手による生物の種の創造への疑問、エトセトラ。
　生産力の発達に伴い、科学の発展に従い、人々の暮らしは、次第に向上し、実質的な災難は、人々の人生の上から取り除かれる。かつて不可思議であったことも（例えば、星の運行がアイザック・ニュートンの万有引力の法則によって説明されたように）漸次、究明され、神秘主義は潰滅する。生活に実質的な不安がなくなれば、祈ることも必要でなくなる。真の意味での合理主義がキリスト教神学を神学者たちだけの手に（「たとえば、アルベルト・シュヴァイツァーもこの中に含まれる」と彼はいう）追いやる。近い将来に、人工の生命、人造人間等々が造られれば、生命を創造できるのは神のみという最大の神話は、決定的に粉砕され、あらゆる宗教は、その理論的な、歴史的な基盤を覆される。
　こうして、近い将来、宗教は、宗教史家の手中にのみ残され、現職の枢機卿は、宗教の危機を浩嘆するだろう。そして、宗教は、時間の軸の中で、無限に消滅に近づく。まさに、フリードリヒ・ニーチェが『ツァラトゥストラ』で書いたように、
「神は死んだ」
のだ。しかし、それでも完全な無にはならない。分子が１で、分母が無限大であるような分数の様に、その値は、無限にゼロに近づくが、消してゼロにはならない。それと同じように、
「宗教は決して絶命しない」
と彼は言う。
「どうして？」
とわたしは、もったいぶっている彼に先を話すこと催促した。彼は、徐に話を続けた。