たとえ島がなくてもひとり漕ぎ続ける
 
 でも、ありがとう。海は素晴らしかったわ。太平洋の遠浅な沿岸は、日本海のように、わたしの好きな世紀末的な情緒を持ち合わせていないけれど、潮風はわたしの胸の空洞を少しは満たしてくれた。そこで、つのだひろの『失恋レストラン』のような歌が生まれる。

  マリンパーク ブルーな 
  波に揺れられて 夕陽が沈む
   まるで あなたがつく嘘 
   赤く燃えてる コバルト・ブルー
    胸を 締め付ける あああ あの愛は
     沖に去る船の 白いマストの 千切れ雲
    君は 君でない 昔憧れた
     あの優しかった 広い肩の男の子は
    今はもういない あああ あのあなたに 
    初めて出逢った 想い出のマリンパーク

  マリンパーク ひとりで 
  来てはみたけど 潮風だけが 
   語りかける 淋しさ 
   君と来た日の 足跡だけが
    砂に 刻まれて あああ あの愛は
     沖を行く船の 白い波間に 消えるのか
    今は ただひとり 砂をかみしめる
     石を投げつけて未練断てるなら投げよう
    だけど忘られぬ あああ あの愛に
    命を懸けてた 想い出のマリンパーク

  マリンパーク もいちど
  あなたと来たなら あの日に帰る
   あなたをわたしの どこかが 
   そんな男に 変えたのだろう
    わたしも 悪かった あああ あの愛は
     沖を飛ぶ鳥の 白い翼に 届かない
    わたしも わたしでない 何も知らないで
     ただ夢中だった だけどあなたを愛していた
    やり直せるなら あああ あの船で
    遠くへ行きたい 想い出のマリンパーク

 そして、海辺で放心して水平線を眺めていたわたしの傍らにいたのが、あなたではなく、やんごとない男の人だったら、自分の命をかけ、わたしを愛そうというという男の人だったら、自分の貴重なものを放擲してまでわたしを愛そうという男の人だった、わたしはどんなにか、安岡章太郎の『海辺の光景』に感涙し、嘆賞のため息を漏らしたことだろうか。そこで、星野哲郎の『アンコ椿は恋の花』のような歌が生まれる。

  別れの朝を しののめを
  一体何に喩えよう
   窓辺の白い紫陽花が
    例えば不意に紫に