いま、わたしが誰かに犯されたいと願うことに、キリスト教徒が自殺のことを考えるときのような、倫理的な障害は何もない。でも、あなたはダメ。あなたは、わたしにとっては男ではないの。あなたは、わたしにとっては中性的な、セックスレスな一個の人間。たとえ、あなたにデーヴィッド・ハーバート・ローレンスの『チャタレー夫人の恋人』のインポ・クリフォード卿の持っていなかった第一の性としての能力があり、わたしを犯したいという感情があったとしても、あなたは、自己完結的であるがゆえに、わたしとはかみ合わない。あなたには性的欲望を充足させるために、虚栄心を満足させるために、叩いても壊れない玩具を手に入れるために、他人に誇る事のできる美しい所有物を確保するために、自分の安息場としての家庭を築く為に、料理を作ってもらいたいがために、子供を産ませたいがために、わたしを娶るに違いない。二人だけの世界を構築するためにではなく、あなたの世界の存続を可能ならしめたいがために、わたしと婚姻関係を結ぼうとする。もちろん、父も母も反対しないだろう。だって、父も母もあなたの秀才ぶりを、好男子ぶりを、あなたの家の過不足のなさを十分に知り尽くしているから。でも、わたしはいや!
 女をプラスとし、男をマイナスとするのならば、そして、女を陽とし、男を陰とするならば、あなたは両極を有する人間。あなたは陽と陰を具有する人間。ちょうど、プラトンのソクラテス対話篇の『饗宴』において、悲劇詩人アガトンが語る愛の神エロースへの讃歌の中で、太古の昔に存在し、今は失われてしまった完全体としての人間のあり方であるアンドロギュノスのように。そこで、ちあき哲也の『仮面舞踏会』のような歌が生まれる。

  わたしの仮面は ファーストレディ
  借りた衣装は イブニング
  でもあなたにはよそ行きでない
  ほんとのわたしを知ってほしい

  さあ仮面を投げ捨てて
  シャンパンを浴びて踊りませんか
  さあ衣装を脱ぎ捨てて
  ワインを浴びて踊りませんか
   ゼンマイ仕掛けの
   ゼンマイ仕掛けのように
   夜が眠りにつくまで踊り狂おう

  あなたの仮面は ジェントゥルマン
  借りた衣装は タキシード
  でもわたしには借り物でない
  ほんとのあなたを見せてほしい

  さあ仮面を取り外し
  コニャックを飲んで踊ってほしい