たとえ、あなたとわたしが結婚したとしても、二人は一生溶け合うことはないのよ。わたしは、あなたに抱かれたいとは思わない。女が男と結婚するのは、安心して抱かれたいと思うから。両親から離れて背徳の鎖から解き放たれ、二人だけの閨房で乳繰り合いたいがために。それが結婚の本来の目的であるし、また、そうでなくてはならない。それが、節理というもの。幾千年も決して休むことなく、怠ることなく自分の死後を支配する子孫の存続のため、継承されてきた不可侵の真理。わたしも、その輪廻のひとこまを占めるにすぎない。そこで、なかにし礼の『手紙』のような歌が生まれる。

  お許し下さい
  しとどな雨があなたの頬を
   したたかに打つように
    不意に手紙を書くことを
  ただ 私は知って貰いたかった
  私にはもう
   やがて来る春の香りを
    胸に吸い込めないことを
  忘れて下さい
  私の愛はあなたの愛を
   盗み取るためのもの
    嘘で固めたことばかり

  お許し下さい
  見知らぬ人があなたの庭の
   薔薇を折り取るように
    不意に手紙を書くことを
  でも 私は知って貰いたかった
  私にはもう
   やがて来る春の光が
    胸に差し込まないことを
  忘れて下さい
  私のことはあなたの胸の
   片隅にあればいい
    過ぎた望みは持ちません