俺は 俺はムシキング
  毎日 毎日 虫かごの中
  段々利口になってきた
  無批判 無思想 無責任
  サラリーマンに似てきたよ
  ある日 ある朝 起きてみたら
  どういう訳か変身してた
  助けておくれと叫んだら
  子供たちがやって来て
  俺を箒で追い出した

  なんと 俺は油虫 
  楕円の背中に 真っ黒い腹
  目のない代わりに髭がある 
  トイレや台所 縁の下
  人目をしのび こそこそと
  何で変身したんだろう
  この身に覚えが何にもないよ
  この世に神様 仏様
  いるのならばお願いだ
  もとの姿に変えてくれ

  俺は 俺はゴキブリだ
  毎晩 毎晩ゴミ箱あさり
  段々利口になってきた
  身の丈 相応 分を知る
  ホームレスに慣れてきた
  ある日 ある晩 夜の散歩
  いきなりあたりが騒がしくなり
  誰かが叫んだゴキブリと
  子供たちがやって来て
  俺を箒で潰したよ



三月三日

 彼と有楽町で映画を見る。腐れ縁とはこのこと。わたしはもう彼と一緒にいることに、何の感興も覚えない。だけどわたしは、他人が羨むようなブルジョアの娘で、何もすることがないし、他に誘ってくれる人もいないし、アルバイトの口もなければ、彼と会う以外に仕方がない。つまり暇つぶし。
 スイスという西洋レストランは、なんて汚いのだろう。ビルとビルの間に挟まれて、改築のできなくなった陋屋だ。銀座にこんなお店があるなんて。床も板の間だし、二階なんか、窓枠もテーブルも傾斜している。でも、レストラン・オリンピックより安くて(と言っても銀座ではと言うこと)美味しい点だけ上等。その安いということも、いつも払うのは彼だから、わたしには関係ない。彼は、度外れた浪費家。そこを出てから、又、喫茶店マロン。彼は、コーヒー茶碗を傾けながら、こんなことを言っていた。