わたしの彼は、いつものように、腕も組まずにバラバラで鑑賞することを望んだ。彼と一緒にいても、わたしは少しも楽しくない。ウキウキするはずのこの種の出会いに特有な、胸の沸き立つ様なものがない。知り合った頃は、それでも、好意を持っていたけれど、矢張りフィーリングが合致しないとダメ。彼は、籠の中のゴールデン・ハムスターのように、回転するリンクの中で円運動をしているだけ。絵画の話にしてもそう。彼は予め回答を用意して、それから唐突にわたしに聞く。
「この絵のどこを見ている?」
熟考する余裕のないわたしが、時として支離滅裂なしどろもどろの返答をするのは当然のこと。それを彼は、
「違うな、そうじゃないよ」
と言って、わたしを蔑むように、自分の屁理屈を得意げに敷衍する。ところが、彼の話は、下手な役者の死んだセリフのように、聞き手の心に全然染みてこない。
「僕は絵の視点、光源を見る」
あなたの言の葉は、まるでわたしの心の琴線をつま弾かない。あなたは、国立西洋美術館の前庭にうずくまっているロダンの考える人と同じように「もの」でしかない。ジャン・ポール・サルトルの『嘔吐』のアントワーヌ・ロカンタンが見つめたマロニエの木の根っこのように、あなたは、そこに醜く存在するだけ。わたしの心を乱すこともしないし、わたしの体に触れることもしない。
あなたは、あなたの生命を賭すような理想を持っていない。あなたはただ、既成の、定年退職まで定められているエリート・コースを歩くだけ。あなたは、世間の選ぶものしか選ばない。本当は、あなたは、わたしが欲しいのでしょう?わたしの全てが。できれば手軽に。
でも、わたしは、あなたに心を許さない。だから、あなたはイライラしている。もし、そうでないとしたら、あなたは何故わたしとデートを重ねるの?あなたは、手を握ることすらしない。恰も不潔なことをするかのように。でも。あなたも結婚すれば、あなたの奥様と、きっと閨房を共にすることでしょうね。
あなたはだめ。あなたは失格。あなたには嘘が多すぎるのよ。あなたは、あなたではなくて、フランツ・カフカの『変身』のグレゴール・ザムザのように社会によってつくられた化け物なのよ。他人の目を気にし、『城』にたどり着くこともできずに、自分の生活に囚われている。さようなら。もう、別れる時が来たようね。あなたにこの歌を贈る。
「この絵のどこを見ている?」
熟考する余裕のないわたしが、時として支離滅裂なしどろもどろの返答をするのは当然のこと。それを彼は、
「違うな、そうじゃないよ」
と言って、わたしを蔑むように、自分の屁理屈を得意げに敷衍する。ところが、彼の話は、下手な役者の死んだセリフのように、聞き手の心に全然染みてこない。
「僕は絵の視点、光源を見る」
あなたの言の葉は、まるでわたしの心の琴線をつま弾かない。あなたは、国立西洋美術館の前庭にうずくまっているロダンの考える人と同じように「もの」でしかない。ジャン・ポール・サルトルの『嘔吐』のアントワーヌ・ロカンタンが見つめたマロニエの木の根っこのように、あなたは、そこに醜く存在するだけ。わたしの心を乱すこともしないし、わたしの体に触れることもしない。
あなたは、あなたの生命を賭すような理想を持っていない。あなたはただ、既成の、定年退職まで定められているエリート・コースを歩くだけ。あなたは、世間の選ぶものしか選ばない。本当は、あなたは、わたしが欲しいのでしょう?わたしの全てが。できれば手軽に。
でも、わたしは、あなたに心を許さない。だから、あなたはイライラしている。もし、そうでないとしたら、あなたは何故わたしとデートを重ねるの?あなたは、手を握ることすらしない。恰も不潔なことをするかのように。でも。あなたも結婚すれば、あなたの奥様と、きっと閨房を共にすることでしょうね。
あなたはだめ。あなたは失格。あなたには嘘が多すぎるのよ。あなたは、あなたではなくて、フランツ・カフカの『変身』のグレゴール・ザムザのように社会によってつくられた化け物なのよ。他人の目を気にし、『城』にたどり着くこともできずに、自分の生活に囚われている。さようなら。もう、別れる時が来たようね。あなたにこの歌を贈る。