ハートの ハートの ハートのクウィン
  あなたは彼女に閉じこめられて
  段々年をとって逝くだけ
   愛するときのあなたの切り札 
   愛するときにあなたが貰えば
   彼女はすべて あなたのなすまま
  哀れな 哀れな 哀れなクウィン
  彼女に囚われ出られぬクウィン
  あなたは彼女の嫉妬を受けて
  今では赤い服もしわしわ

  哀れな 哀れな 哀れなわたしら
  半端な 半端な 半端なわたしら
  腕組むことも抱き合うことも
  なんにもせずにゲームするだけ
   愛することも別れることも
   どちらもせずに付かず離れず
   わたしらはいつも ただの友達
  哀れな 哀れな 哀れなわたしら
  愛する振りだけしているわたしら
  手を取ることも触れ合うことも
  何にもせずにゲームするだけ


十二月二十日

 またしてもわたしは、ずるずるべったりで、彼とレンブラントとオランダ絵画巨匠展を見に行った。どんな絵があったか、殆ど覚えていない。そして、あなたが、どんなことを話したのかも。
 もう、あなたの機知に富んだ会話は、わたしを興奮させない。かつてはあなたのラ・ロシュフーコの『箴言』や芥川龍之介の『侏儒の言葉』を思わせるような警句が異様に新鮮に感じられ、それだけでうっとりとしたこともあった。
 喫茶店の片隅で、唯物史観とは、史的唯物論とは、マルクス主義とは、近代経済学とは何かを語るあなたの声に酔うこともあった。半年前のあなたを、わたしはひょっとしたら愛していたのかもしれない。
 あなたの家に電話をして、あなたのお母様に取り次いでもらえなかったとき、わたしは真剣ではないが、一瞬、自殺しようかとも思ったほど。
 あなたからの電話だと母がわたしに告げるとき、わたしの胸は無性にときめいたものだった。でも、いまはもうだめ。あなたは、女というものをあまりにも知らなさすぎる。