その子なら昨日まで
  その店にいたけれど
   訳はよく分からない
    今朝店を出て行った
  たぶん 人のウエディング
   ドレスばかり作るのが
    いやになったんだろうさ
     結婚したくなったのさ
  お針子メアリー 店一番の
  かわいい子だった 昨日まで

  あの子なら明日から
  あの店にまた来るよ
   訳なんか知らないよ
    何でまた戻るのか
  たぶん 悪い男にさ
   すぐに振られ騙されて
    仕方ないから来るのさ
     結婚なんか夢なのさ
  お針子メアリー 店一番の
  働き者だよ 明日から

  その子なら昨日まで
  その店にいたけれど
   いい人が出来たのさ
    もう店を出て行った
  今度こそは ウエディング
   ベルを鳴らすはずだから
    これが最後と言ってたよ
     結婚するとはしゃいでた
  お針子メアリー 店一番の
  幸せ者さ ほんとなら

 わたしの心は、ずっと虚ろだった。生きているのでもなければ、死んでいるのでもない。ただ、存在しているだけだった。その証拠に階段を昇降した記憶はあっても、あの変な肖像画を除いては、他にどんな絵が飾られてあったのか、てんで記憶していない。
 スキヤ通りには、幾組かの女と男が寄り添って歩いていた。いずれのカップルも、この世には自分たち二人しかいないような顔をしてどこへ行くともなしに、二人だけの世界を享楽している。でも、かれらのすることは、みんな同じだ。十人十色ではなく、十人一色だ。暗い所で抱擁しあい、ペッティングにふけり、軈てセックスに移行する。それがどれもこれも、揃いも揃って同じなのだ。あのカップルも、このカップルも、みんな同じことをする。
 恋!わたしは恋を軽蔑する。恋は、当事者にとっては、非常に大切なものであるかもしれない。いや、かれらは、そう妄信するのだ。でも他の人々にとっては、犬や猫のじゃれあいと少しも変わらないように見える。