千鶴子の歌謡日記

ひと時の気まぐれで穢されるのを恐れ
あれほど恋を避けて通ってきたのに
どうして青春を強烈に甦らせたのか
埃だらけのつなぎのズボンに革ジャンパー
いつ梳いたともわからないボサボサの髪
貴方にとって愛は、いつも
永遠に遠ざかって行くことの代名詞
ピアはいつしか母を押しのけていた
母に変わるべきいとしい愛の対象
貴方の心に浸透してきたとき
ピアは忽然と去った
恰も14年前の母のように
しかも神ではなく他の男へ

ニューヨークの下町を彷徨する孤独な魂
貴方の生活は日に日に荒む
床に茣蓙を布いて眠り
家具のない部屋に酒瓶を転がす
ああ、ピア、ピア、ピア・・・
物静かなやさしさ、光に満ちた瞳、楚々たる容姿

貴方は叫ぶピアの夫に
「わが愛を彼女に与えたまえ」
とめどなく涙があふれ
嗚咽をこらえた涙声が悲しみに消え
声にならない絶叫が闇を裂き
轟轟たるエンジンの響きのみが残る

貴方の表情は暗示する
やりどころのない寂しさと悲しみの影
愁いに沈んだ瞳と
青黒い無精ひげが内心の寂しさを物語る
貴方は歩く、どこへ?
極まりなく虐げられた愛のない人生
純白の雪のように純潔で
感受性の強い、訴求力に溢れた魂
貴方はブルーの瞳を投げかける
一体、何を求めて?
貴方は傷ついた心で何かを求める
母を?ピアを?神を?

貴方は何の前触れもなく死んだ
たった24歳と8か月で
1955年9月30日午後5時59分
銀色のポルシェ・スパイダー23を駆って
カリフォルニアのパソ・ローブルの近く
ベーカーフィールド466号国道の交差点
――楽しかりし時代はもはや彼方に過ぎ去ってしまった
それは貴方の末期の言葉
その時、貴方の胸に去来したものは何?
沈痛な愛執? 
ピアへの断ち切れない慕情?
それとも演技への飽くなき願望?

他の人が、十人ぐらい集まらなければ生きられないような青春を貴方は生きた
真昼間の箒星のように
貴方は最期に大きく光芒を放って消えた
ブラックホールの彼方に

貴方の眠るパーク・セミトリ―の土に
今日も雨が降る
幾たりかの恋人たちが、遠巻きに、
一つの傘の下に寄り添って通り過ぎる
貴方はもう二度と還ってくることはない
そして貴方は、永久に年を取ることもない
貴方の命に比べ、貴方の人生は何と荒んでいたか
貴方は一度でも人を愛し、人に愛されたことがあったか
貴方の生涯は愛に餓えた歴史