千鶴子の歌謡日記

 もうよそう、あなたを愛すことは。こうまで、こうしてわたしが受けた苦しみを、あなたにも味わわせてやりたい。わたしは、もう少し積極的になろう。そして、わたしがあなたを好きであることをあなたに詳らかに示して、本心は絶対に打ち明けない。わたしは、行為としてあなたを愛すが、心からあなたを愛すことはしないように努める。そして、万一、あなたがわたしを好きになった時、その時こそ、わたしの復讐が始まる。逆に、あなたがわたしを好きにならなくても、わたしは単に行為として、つまりうわべだけの偽りとして、あたかも好きであるかのように見せかけただけだから、もともと。わたしの心に、損失は全くないのだ。でも、六本木の雨は止まない。そこで水木かおるの『アカシアのあめがやむとき』のような歌が生まれる。

  雨に打たれて
  死にたいと
   誰かが囁く
    夜の街
  どうせ今夜も
   来ない人
  雨はあなたの
   言い訳ね

  雨に流して
  忘れなと
   ギターの慰め
    酔いの街
  どうせいつかは
   捨てられる
  流す泪は
   未練雨

  そんな冷たい
  恋ばかり
   ネオンが泣いてる
    嘘の街
  どうせわたしが
   馬鹿なのよ
  ひとりさまよう
   夜の雨

 とにかくわたしのすべきことは、最小の努力で最大の好意を演出すること。その好意は、どこまで行ってもウソ。嘘をさも、真実であるかのように見せかけ、そのイミテーションに引っかかったら、その餌がもっと心の奥底にまで引っ掛かるように仕向けて、最後の最後に、芥川龍之介の?陀多の『蜘蛛の糸』をプッツンと切ってやろう。
 あの人は、わたしの愛を無視した故に、わたしの報復を受けねばならない。十月十五日が、あの人の誕生日だという。アレクサンドル・デュマ・ペールの『モンテ・クリスト伯』の復讐の第一歩は、十月十五日のあの人への贈物によって印そう。そう決めたから、しばらく、憂さ晴らしに六本木の夜の散歩を楽しもう。そこで、売野雅勇の『六本木純情派』のような歌が生まれる。

  ラ・メゾン・プティ キャッスル・プラハ
  昼はちょっぴりすまし顔
  ラブ・ラブタウン六本木
  外苑東通りで
  ファッショナブルな恋のお話
   あなたに囁いてみたい
   アマンド 交差点
   あなただけに あなたにだけ