千鶴子の歌謡日記

 何事も、自らその行為の中に身を投げてみなければ、真相は分からない。死もそう。わたしたちが、死に興味を持っていながらも、厳然と死を恐れるのは、それが一回限りであるという常識的な考えを持っているから。死だけは、選び直しがきかない。だから、わたしたちは、死を選ぶことができない。『巌頭之感』の藤村操は、死を選んだのではなく、病の末に不可避的に死に至ったのだ。萩原朔太郎が『アフォリズム』の中で言っていたように、「窓から飛び降りて地上につく間に後悔するかもしれないという恐れ」を誰しも持っている。でも、死ななければ、どうしても死を認識することはできない。すべてが不確定だ。そこで、支離滅裂の曲に合わせて、歌が生まれる。

  振っていた手 
  ほほえみながら
  それって となりの人なの
  わたしを見る目 
  そんな気がして
  それもきっと 
  UNCERTAIN

  消しゴム ひろって 
  くれたのは
  気まぐれ それとも なに?

  ゆうぐれの 放課後は
  見えても 見えない
  あなたの こころ

  やめて おもわせ ぶりは
  かたむく こころが いや

  不安に とらわれて泣きそう
  やめて UNCERTAINTY
 
 明日、クラウンに行ってみよう。川村さんは確か、体の都合で来られないはずだから。でも、取り返しのつかないことになるかもしれない。わたしは、エルヴィン・シュレーディンガーの猫のように、不確定な死を迎えるのかもしれない。そこで、飛鳥涼の『めぐり逢い』のような歌が生まれる。

  取り返しのつかない時を 奪って
  巡り逢いは いつもわたしに
   限りなくも 儚い時の 悔やみを
    染みつかせて 去って行きます

  口から出る言葉はいつも 裏腹
  語り合いは いつもあなたの
   心の襞 傷つけ 嘘の上塗り
    ほんとのこと 何で言えない

  臆病な生き物は 巡り会うとき
  いつも逃げようと 身構えるものなのです
    かくばかり いたいけな 心根だから
     愛よ その棘を 見せないで

  取り返しのつかない言葉 返して
  さようならの 香る手紙は
   美しくも 儚い棘の 痛みを
    胸に植えて 刺さる後悔

  細やかな生き物は 失うことの
  つらさ悲しさに 耐えることすらできない