気付いていたのに声をかけなかったとすれば、彼は、川村さんが間違えて入場券を手にしたと思ったか、それともそこに立っていたのが偶然だと思いこみ、なおかつ、川村さんにわたしと会うところを見られたくなかったためだろう。そして、彼は多分、十分か二十分遅れてきたのだ。だから待つことをせずに、ざっと見渡してみて、わたしのいないことに気付き、川村さんに見つかる前に帰ったのだろう。それとも、川村さんの視野に入らないところで、時間通りに来てから、しばらく待っていたのかもしれない。でも、もし、川村さんにわたしと会うことを知られるのを避けたとしたら、民法Ⅱのノートにあの入場券をはさんだままにして、封筒に入れなかったのはおかしい。川村さんに、あの入場券を見られても、かまわないと思ったから、あんなぶっきらぼうな挟み方をしたのに違いない。だから、入り口に立っている川村さんを見た時に、わたしが川村さんにあの入場券をあげたと思ったのだろう。そして、川村さんと一緒に観るのを避けて、一人で帰ってしまった。でも、ヘン。わざわざ上野まで出かけて、なぜ、川村さんに声をかけて真相を聞かなかったのだろう。彼は、川村さんを、ひどく嫌っているのだろうか?
それとも、川村さんの言ったことは、全て嘘なのだろうか?嘘だとしたら、なぜ、嘘をついたのだろうか。彼にあったことをわたしに知られてはまずいと思っているのだろうか。なぜ?――わたしを恋敵だと思っているからかしら。知らないうちにわたしを出し抜こうというのだろうか。
嗚呼、わからない。まず、問題なのは、川村さんが本当のことを言っているのか、それとも嘘をついているのかということ。嘘をついたとしたら、なぜ、嘘をついたのだろうか。また嘘ではないとしたら、あの人は、なぜ、川村さんに声をかけなかったのだろう。そして、もし行かなかったとしたら、なぜ、お詫びの電話をかけてこないのだろう、
それとも、川村さんの言ったことは、全て嘘なのだろうか?嘘だとしたら、なぜ、嘘をついたのだろうか。彼にあったことをわたしに知られてはまずいと思っているのだろうか。なぜ?――わたしを恋敵だと思っているからかしら。知らないうちにわたしを出し抜こうというのだろうか。
嗚呼、わからない。まず、問題なのは、川村さんが本当のことを言っているのか、それとも嘘をついているのかということ。嘘をついたとしたら、なぜ、嘘をついたのだろうか。また嘘ではないとしたら、あの人は、なぜ、川村さんに声をかけなかったのだろう。そして、もし行かなかったとしたら、なぜ、お詫びの電話をかけてこないのだろう、


