「じゃあ、きっと、二人ともお互いにわからないところに立っていたのね。電話をすればよかったのに」
「電話番号は知らないの。わたしは五分前について、入り口のところに立っていたんだから」
「クラウンの名簿に彼の電話番号があるでしょ」
「ないのよ」
「じゃあ、彼は会員じゃないの?」
「白井さんは井阪さんのゲストなの」
いったい、どういうことなのだろう?あの人はいかなかったのだろうか。そんなことがありうるだろうか?自分から誘っておいて、すっぽかすことが――。もし、そうだとしたら、いったい何のためにそうしたのだろう。何か用事ができたからだろうか?それとも、一時間ぐらい、わざと遅れてきて、待っているかどうか確かめようとしたのだろうか?もし、そうだとしたらなぜだろう。いや、そんなことはない。譬え、そうだとしても、あの人が常識的な人間ならば、必ずお詫びの電話をわたしにかけてくるはず。その電話がなかったのだから、たぶんあのひとは、時間通りに美術館に行ったのだ。そして、スペイン絵画展を観ずに帰ったのだ。嗚呼、わたしは、何ということをしたのだろう。あの人は、怒っているに違いない。
だけど、もしそうだとしたら、川村さんになぜ声をかけなかったのだろう。そして、川村さんは、なぜ彼を見つけられなかったのだろう。川村さんは、ぼんやりしていたのだろうか?
「あなた、それでポケッとして待っていたの?」
「本を読んでいたわ。時々、白井さんを探したけれど・・・」
やはり、彼女はぼんやりしていたのだ。つまり、彼女が下を向いて本を読んでいるときに、彼が美術館の前まで来たのだ。そして、彼は、わたしの長い髪を目印にして、わたしを探していたのに違いない。川村さんの髪はボブカットだから、下を向いていたために、顔が見えず、長い髪にばかり目を奪われて、彼女に気付かなかったのかもしれない。
「電話番号は知らないの。わたしは五分前について、入り口のところに立っていたんだから」
「クラウンの名簿に彼の電話番号があるでしょ」
「ないのよ」
「じゃあ、彼は会員じゃないの?」
「白井さんは井阪さんのゲストなの」
いったい、どういうことなのだろう?あの人はいかなかったのだろうか。そんなことがありうるだろうか?自分から誘っておいて、すっぽかすことが――。もし、そうだとしたら、いったい何のためにそうしたのだろう。何か用事ができたからだろうか?それとも、一時間ぐらい、わざと遅れてきて、待っているかどうか確かめようとしたのだろうか?もし、そうだとしたらなぜだろう。いや、そんなことはない。譬え、そうだとしても、あの人が常識的な人間ならば、必ずお詫びの電話をわたしにかけてくるはず。その電話がなかったのだから、たぶんあのひとは、時間通りに美術館に行ったのだ。そして、スペイン絵画展を観ずに帰ったのだ。嗚呼、わたしは、何ということをしたのだろう。あの人は、怒っているに違いない。
だけど、もしそうだとしたら、川村さんになぜ声をかけなかったのだろう。そして、川村さんは、なぜ彼を見つけられなかったのだろう。川村さんは、ぼんやりしていたのだろうか?
「あなた、それでポケッとして待っていたの?」
「本を読んでいたわ。時々、白井さんを探したけれど・・・」
やはり、彼女はぼんやりしていたのだ。つまり、彼女が下を向いて本を読んでいるときに、彼が美術館の前まで来たのだ。そして、彼は、わたしの長い髪を目印にして、わたしを探していたのに違いない。川村さんの髪はボブカットだから、下を向いていたために、顔が見えず、長い髪にばかり目を奪われて、彼女に気付かなかったのかもしれない。


