のたった一言で返済されてしまったら、彼にとっても、わたしにとっても、二人だけのかかわりあいを持つ契機が失われることになる。わたしは、自分からは絶対に彼に会うべきではないと思う。また、当分、クラウンにご無沙汰しなければならない。
ところで、川村さんに今日会った。彼女は、自分の方からスペイン絵画展について何も語ろうとはしなかった。彼女が自分の方から話しだそうとしないことは、何を意味するのだろうか?彼女も、クラウンに行っていないらしい。このことと、あの人にあったこととは、何か関係があるのだろうか?わたしは、無関心を装っている以上、彼女に問いただすわけにはゆかない。もし、問いただせば、わたしが白井さんに関心を持っていることが、彼女に知られてしまう。でも、わたしは、彼女に入場券を譲渡した立場上、スペイン絵画展について訊く権利はあるはず。そういう立場から聞けば、彼女は、わたしがあの人に関心を持っているとは思わないだろう。もし、わたしが彼に関心を持っていたとするのなら、わたしはスペイン絵画展を観に行っているはずないのだから。そう考えて、彼女に尋ねてみた。
「どうだった?」
「えっ?」
と彼女は目を点にして鳩が豆鉄砲を食ったように聞き返した。絶対にわかっているはずなのにしらばくれている。みえみえだ。
「スペイン絵画展よ。わたしがあげたんだから、訊く権利はあると思うけど・・・」
「まあまあね」
彼女は口を緘した。それ以上語ろうとはしなかった。なぜ、白井さんのことを言おうとはしないのだろうか?
「そう、じゃあ、わたしも一人で観に行ってみようかしら。混んでた?」
「満員よ。日曜祭日はよした方がいいわよ」
なんとなく彼女の言葉は沈んでいた。混雑していたのなら、ばらばらにならないように二人は腕を組むか、手をつないだかして観て回ったかもしれない。でも、そうだとしたら、彼女の言葉は弾んでいてもいいはず。そうでないということは、二人はばらばらだったのに違いない。だから彼女は、
「日曜祭日はよした方がいいわよ」
なんて言ったのかもしれない。
「すぐわかった?」
「すぐわかったって?」
「あら、待っていた場所よ」
「ううん、三十分待ったけど、白井さん、来なかったのよ。だから、一人で観てきたの」
あの人が行かなかったということは、いったいどういうことなのだろう。
ところで、川村さんに今日会った。彼女は、自分の方からスペイン絵画展について何も語ろうとはしなかった。彼女が自分の方から話しだそうとしないことは、何を意味するのだろうか?彼女も、クラウンに行っていないらしい。このことと、あの人にあったこととは、何か関係があるのだろうか?わたしは、無関心を装っている以上、彼女に問いただすわけにはゆかない。もし、問いただせば、わたしが白井さんに関心を持っていることが、彼女に知られてしまう。でも、わたしは、彼女に入場券を譲渡した立場上、スペイン絵画展について訊く権利はあるはず。そういう立場から聞けば、彼女は、わたしがあの人に関心を持っているとは思わないだろう。もし、わたしが彼に関心を持っていたとするのなら、わたしはスペイン絵画展を観に行っているはずないのだから。そう考えて、彼女に尋ねてみた。
「どうだった?」
「えっ?」
と彼女は目を点にして鳩が豆鉄砲を食ったように聞き返した。絶対にわかっているはずなのにしらばくれている。みえみえだ。
「スペイン絵画展よ。わたしがあげたんだから、訊く権利はあると思うけど・・・」
「まあまあね」
彼女は口を緘した。それ以上語ろうとはしなかった。なぜ、白井さんのことを言おうとはしないのだろうか?
「そう、じゃあ、わたしも一人で観に行ってみようかしら。混んでた?」
「満員よ。日曜祭日はよした方がいいわよ」
なんとなく彼女の言葉は沈んでいた。混雑していたのなら、ばらばらにならないように二人は腕を組むか、手をつないだかして観て回ったかもしれない。でも、そうだとしたら、彼女の言葉は弾んでいてもいいはず。そうでないということは、二人はばらばらだったのに違いない。だから彼女は、
「日曜祭日はよした方がいいわよ」
なんて言ったのかもしれない。
「すぐわかった?」
「すぐわかったって?」
「あら、待っていた場所よ」
「ううん、三十分待ったけど、白井さん、来なかったのよ。だから、一人で観てきたの」
あの人が行かなかったということは、いったいどういうことなのだろう。


