千鶴子の歌謡日記

「A.M.12:00 ON JULY 1st AT THE TOKYO NATIONAL MUSEUM」
と赤インクのタイプ文字で打って会った。その時、おそらくわたしの頬は綻んだに違いない。でも、すぐに川村さんのわたしの容子を伺うような視線がこちらに向いていることに気づいた。わたしは平静を装った。彼女は多分、これを見たに違いない――そう思うと、わたしの喜びは減殺された。このことを彼女に知られた以上、わたしは、行きたくないような素振りを見せなくてはならない。わたしの彼に対する好意を下世話放送局の彼女に知られることは、苦痛だから。彼がわたしに好意を持っていることが、明瞭になればいい。でも、これだけでは明らかとは言えない。わたしは、
「わたし、ちょっと、都合悪いの、あなた行かない?」
と彼女に言おうと思った。その言葉で彼女は、わたしが彼に全く好意を持っていないことを知るだろう。そして、彼女は恐らく断るだろう。なぜなら、紛れもなく、この入場券はノートを借りたお礼として、彼がわたしにくれたものなのだから。たとえ、彼女がわたしの代わりに行ったとしても、彼女は気まずい思いをするだけだから、決して行く気にはなれないはず。それに、もし彼女が、
「行く」
と答えれば、彼女は彼に対する自分の好意をあからさまにわたしに知られてしまうことになる。彼女が、もしプライドの高い女なら、とても、
「行く」
とは言えないはず。そう思ってわたしは、とぼけてこう言ってみた。
「あら、これ何かしら、あなたの?」
「白井さんが挟んだんじゃないの?」
「ふうん」
と、わたしはさも興味なげに言って、
「わたし、絵なんか全然興味ないんだけど。七月一日?都合悪いわ。あなた行ってくれる?」
 彼女は、
「行かない」
と言うにきまっているとわたしは思った。ところが彼女は、嬉々としてこう答えたのだ。
「ほんと?代わりに行っていいの?」
 わたしの願望が打ち砕かれた。でも、平静を装って、
「いいわよ。わたし、どっちかっていうと絵なんか好きじゃないのよ」
「でも、それ、あなたにあげたものなんでしょ?」
「そうかしら、あなたにあげたつもりだったのかもしれないわよ。だって、このタイプの字は、日付と場所だけで、名前も入っていないし、ノートをありがとうとも書いてないわ」
 彼女は、彼が入場券だけ挟んで、