千鶴子の歌謡日記

   嫌われて当たり前ね
    だけど愛されたいの 
     一夜だけでもいい
   だから ねえ ねえ ねえ あなた
  ひとときの夢を見させて
   せめて ねえ ねえ ねえ あなた
    嘘でもいい夢を

  あなたを振り向かせたい
   死ぬ気はなかったの
  ごめんなさいね 血で部屋を赤く染め
   愛すれば愛すほどに
    遠く遠ざかるのね
     いとおしいあなたは
   だけど ねえ ねえ ねえ あなた
    ひとときの愛をください
   せめて ねえ ねえ ねえ あなた
    嘘でもいい愛を

六月十六日

 あの人は、とうとう電話を掛けてこなかった。その間、わたしはどれほど、彼からの電話を待ったことだろう。夜、電話の鳴るたびに、わたしは胸をときめかせた。もしかしたら、・・・その連続だった。彼からの電話でないとわかると、わたしはそのたびに落胆した。そして、そのたびに、電話の音とともに飛翔しかけたわたしの心のアドバルーンは、ストンと急降下してしまうのだ。全く、心筋によくない。電話のかかるたびに、心臓が膨れたりしぼんだりしていたら、そのうちに、麻痺してしまうかもしれない。なぜ、電話を掛けてこないのだろう。郵送するかもしれないと思ったけれど、それもなかった。
 わたしは仕方なく、一時間目の民法Ⅱの時間にレポート用紙を用意した。あの人のために、レポート用紙に授業を取らなくてはならない。何て、腹立たしい男なのだろう。電話を掛けてくることぐらいなんだというのだろう。恩知らずめ!わたしは、そう思いながらも、一時間目の授業が始まる前に、彼がノートを持ってくるかもしれないと仄かな期待を抱いていた。もし、彼が持ってきてくれたら、わたしはきっとわたしの心を彼にあげてしまったかもしれない。しかし、その期待も裏切られた。一時間目の始まりのブザーが鳴ると、淡い期待で膨らんだわたしの桃色の風船は、ブザーの音の針でプツンとパンクしてしまった。 
 一体、なんという礼儀知らずなのだろう。わたしは、いら立ちを抑えることができなかった。レポート用紙を埋めてゆくわたしの文字は、裏切られた腹立たしさから、とげとげしくなった。