と思っていることを。わたしは目をつぶるような気持ちでとうとう、こう言った。
「民法Ⅱをとっていますか?」
「とっているけど」
「森先生の」
「そうだよ」
「じゃあ、同じですね」
「君は一時間目でしょ」
「でも、やっていることは同じでしょ」
「そうなの?よく知らないけど、一度も出ていないからわからないよ」
嗚呼、彼は、なんて鈍感なのだろう。わたしがノートを貸したがっていることがわからないのかしら。とうとう、わたしは、意図的に貸さざるを得なくなった。
「何でしたら、貸してあげましょうか。わたし、ずっと出ているんです」
「よくとってある?」
と小馬鹿にしたような言い方。なんという無神経さなのだろう。彼は、わたしに、全く好意を持っていないのかもしれない。わたしが彼の手にした本の背に手をかけた時、彼が長い睫毛をあわただしく動かしたのは、わたしに好意があるからだと思ったのに。でもわからない。彼の、この無神経さは、好意の裏返しなのかもしれない。丁度、幼稚園の男の子が、好きな女の子をいじめるように、彼は、わざとわたしに対して無粋な口のきき方をするのかもしれない。
わたしは、民法Ⅱのノートを差し出した。彼は立ち止まらずに、パラパラとめくって、こう言った。
「なかなか、よくとってるね。字もきれいにみえるけど。これはボールペンが細いせいかもしれないね」
と棘のある物言い。こう語るのが彼の癖なのだろうか。クラウンでの彼は、確かに毒舌家だけど、全ての女性に対してそうなのだろうか。もしそうでないのだとしたら、わたしを一人の女性として見做していないことになる。わたしは、彼にとって、単に同じテニス・クラブ、クラウンの会員でしかないのだろうか。それとも彼は、故意に棘のあるある口吻でわたしに強い印書を与えようとしているのだろうか。
「じゃ、かしてもらうよ」
そういうと彼は、他のノートと一緒に、わたしのノートをわきの間に挟んだ。ただ、それだけ。それだけのこと。わたしが、
「三時間目は、南校舎だから」
と言って、中庭の方に歩いて行こうとすると、彼は後ろから声をかけてきた。
「あ、いつ返したいい?」
「いつでもいいわ」
とわたしは答えた。今思うと、この答えは実に絶妙な返答だった。
「いつでもいい」
「民法Ⅱをとっていますか?」
「とっているけど」
「森先生の」
「そうだよ」
「じゃあ、同じですね」
「君は一時間目でしょ」
「でも、やっていることは同じでしょ」
「そうなの?よく知らないけど、一度も出ていないからわからないよ」
嗚呼、彼は、なんて鈍感なのだろう。わたしがノートを貸したがっていることがわからないのかしら。とうとう、わたしは、意図的に貸さざるを得なくなった。
「何でしたら、貸してあげましょうか。わたし、ずっと出ているんです」
「よくとってある?」
と小馬鹿にしたような言い方。なんという無神経さなのだろう。彼は、わたしに、全く好意を持っていないのかもしれない。わたしが彼の手にした本の背に手をかけた時、彼が長い睫毛をあわただしく動かしたのは、わたしに好意があるからだと思ったのに。でもわからない。彼の、この無神経さは、好意の裏返しなのかもしれない。丁度、幼稚園の男の子が、好きな女の子をいじめるように、彼は、わざとわたしに対して無粋な口のきき方をするのかもしれない。
わたしは、民法Ⅱのノートを差し出した。彼は立ち止まらずに、パラパラとめくって、こう言った。
「なかなか、よくとってるね。字もきれいにみえるけど。これはボールペンが細いせいかもしれないね」
と棘のある物言い。こう語るのが彼の癖なのだろうか。クラウンでの彼は、確かに毒舌家だけど、全ての女性に対してそうなのだろうか。もしそうでないのだとしたら、わたしを一人の女性として見做していないことになる。わたしは、彼にとって、単に同じテニス・クラブ、クラウンの会員でしかないのだろうか。それとも彼は、故意に棘のあるある口吻でわたしに強い印書を与えようとしているのだろうか。
「じゃ、かしてもらうよ」
そういうと彼は、他のノートと一緒に、わたしのノートをわきの間に挟んだ。ただ、それだけ。それだけのこと。わたしが、
「三時間目は、南校舎だから」
と言って、中庭の方に歩いて行こうとすると、彼は後ろから声をかけてきた。
「あ、いつ返したいい?」
「いつでもいいわ」
とわたしは答えた。今思うと、この答えは実に絶妙な返答だった。
「いつでもいい」


