千鶴子の歌謡日記

  パリならロシュフォール
  気取った街並
  ワインローゼに
  染まり行く部屋
  Uh, mon amour, mon amour: Uh, uh, uh, mon amour 
  愛せないことだけ知ってる
  あなたがどんなに求めようと
  愛せない なぜ
  愛せずに 愛せずに
  愛されて モナコ
  愛せない私が悪い
 
 白井さんは、球を綺麗に打ち分けた。バックは片手打ちだ。わたしと井阪という男の方へ、交互に配給した。フォアとバックのそれぞれで、トップスピンとスライスを打ち分けた。わたしはわざとコーナーをついたが、彼はわたしの球筋を全部読んで、軽々と返球してきた。わたしに打ち返すボールのスピンは井阪に返球するボールのスピンより弱かった。トップスピンは跳ね上がり、スライスは地を這うようだった。
 十時頃になると、サラーマン風の男子やOL風の女子で混雑してきた。中年や高齢の男女も散見された。わたしは、汗がテニスウエアに滲んで来たので、井阪の男友達が来たところでやめた。帰り際に、井阪という男が、名簿をくれて、
「今後印刷するときのために」
といってわたしの住所と名前と学校を聞いて来た。その男が、
「コーラでも飲みませんか?」
と言ったけれど、彼が一緒でなかったので断った。でも、その男の誘いにのった方が良かったのかもしれない。彼とのかかわり合いの踏み台になる可能性がある。来週誘われたらついて行こう。天地真理の『恋する夏の日』を口ずさみながら、とりあえず、軽井沢でテニスをした気分で、今日のところはさようなら。そこで、堀辰雄の『美しい村』のような歌が生まれる。

  唐松林の向こうを
  あなたは枯れ葉の自転車で
   微風と共に通り過ぎる
  黄緑色したTシャツ
  あなたは木漏れ日浴びながら
   微笑みの森に消えて行く
    さようなら さようなら
    美しい村
    さようなら さようなら
    美しい想い出
  煙の浅間の向こうへ
  知らぬ間に太陽が
   夕焼けの谷に落ちて行く

  白樺林の向こうを
  あなたとテニスの想い出が
   綿雲に乗って流れて行く
  初恋色した唇
  わたしはコートの片隅で
   息を弾ませ抱かれたい
    さようなら さようなら
    美しい村
    さようなら さようなら