千鶴子の歌謡日記

 わたしは、松本清張の『ゼロの焦点』の板根禎子が夫の失踪の秘密を探ったように、わたしの心のずれの秘密を解き明かしたい。わたしの精神をあれほど激しく揺すぶった秘密を。そして、今の彼が、なぜあの時と同じような感銘をわたしに与えてくれないのかを。
 でも、どうしたらいいだろう。どうしたら彼に近づくことができるだろう。海図のない航海のようだ。そこで、アルチュール・ランボーの『酔いどれ船』のような歌が生まれる。

  あなたに出逢って錨を上げた
   港 離れて当てない船出
  あなたの磁石が強すぎるから
   狂いっぱなし 羅針盤
    一体どうしてくれるの
    一体どうしてくれるの
  大海原に独りぽっち
   西も東も分からないわ

  あなたを目指してマストに登る
   愛の影さえ見えない航路
  あなたの海図が見あたらなくて
   座礁覚悟で舵を取る
    一体どうすりゃいいのよ
    一体どうすりゃいいのよ
  時化や嵐も避けられない
   振り回されてあなたに酔う

  あなたを諦め港に帰る
   なんの獲物も取れない帰港
  あなたに誠が見い出せなくて
   骨折り損で疲れ果て
    こうなるはずではないのに
    こうなるはずではないのに
  舵もマストも操れない
   次の船出はいつの日か


五月十二日

 今日、クラウンの名簿をもらった。彼の名前はなかった。住所も電話番号もわからない。でも、はじめて彼と一緒に打つことができた。川村さんは、お兄さんの結婚式で、
「今日はいかれない」
と、昨日の晩、電話をかけてきた。長渕剛の『乾杯』でも、歌っているのかもしれない。
うつ相手がいなければ、行っても仕方がない。でも、わたしは一人で行った。いつもより少し早めに。テニスコートで会えるのは土曜日だけなのだから。彼よりも少し早くいって、サーブの練習でもしようと思った。そして、彼と一緒に打つことを期待した。