と叫んだが、彼はわたしの方を見向きもしなかった。そのボールを拾いに行ったとき、サーブをする彼の姿をまじかでみることができた。ボールを最高点でとらえるために、彼のからだは一本の鋼のように弓なりにしなり、つぎの瞬間に体重のすべてをボールにかけて、手首を返し、前方にくずおれるようになる。爪先立った足の筋肉の引き締まり、ボールを最高点でとらえるために精一杯に伸ばされた腕の筋肉の深い溝。彼の腕と足の筋肉の収縮と弛緩のひとつ一つが、わたしの胸をざわざわと波立たせる。
でも、彼はそっけなかった。練習の間に、たった一度わたしの方を一瞥しただけだった。どうやら彼は、今のところ、わたしには全く興味がないらしい。彼にとってわたしは、テニスコートの後方に聳えるヒマラヤスギやポプラと同じように、事物の一つにすぎない。白いスコートの下に健康的に伸びたわたしの足が目に入らないようだ。もし、興味があるのだとしたら、彼の相手をしていた背の低い井阪とかいう男のように、
「最近、入ったんですか?」
とか話しかけてきてもよさそうなものなのに。
わたしは、わたしの行為が看破されない程度に、あの人の方を見た。彼の容姿に何一つ変化したものはない。そして、わたしの脈動が激しいことにも変わりはない。でも、半年前に見たほどの感動はなかった。ただ、むやみに動悸がしただけ。なぜだろう。去年の九月に、あの階段で見かけたときのような激越な印象が、なぜ甦らないのだろう。あの時の涙の出るような美しさは、わたしの錯覚だったのだろうか?わたしはひどく裏切られたような感懐を抱いた。あの時、わたしをあれほどの歓喜の絶巓に立たせた彼が、今では、ちょっとした美男子がわたしの肌に指を触れた時と同じような惑溺しか与えてくれないのはなぜだろうか?わたしの方が変わったからなのだろうか?それとも、彼の方なのだろうか?それとも、諸々の環境の所為なのだろうか?
そういえば、彼の髪型は少し違っていた。あの時よりも、彼の髪は少し短くなったいた。あの時、彼の耳殻は髪に隠れて、確かに半分見えなかった。もし、彼が髪を再び伸ばし、あの九月の太陽の夏の名残りの目くるめくような陽光の中に佇んだら、あの時と同じような嘆称が、わたしの口から漏れるだろうか?
でも、彼はそっけなかった。練習の間に、たった一度わたしの方を一瞥しただけだった。どうやら彼は、今のところ、わたしには全く興味がないらしい。彼にとってわたしは、テニスコートの後方に聳えるヒマラヤスギやポプラと同じように、事物の一つにすぎない。白いスコートの下に健康的に伸びたわたしの足が目に入らないようだ。もし、興味があるのだとしたら、彼の相手をしていた背の低い井阪とかいう男のように、
「最近、入ったんですか?」
とか話しかけてきてもよさそうなものなのに。
わたしは、わたしの行為が看破されない程度に、あの人の方を見た。彼の容姿に何一つ変化したものはない。そして、わたしの脈動が激しいことにも変わりはない。でも、半年前に見たほどの感動はなかった。ただ、むやみに動悸がしただけ。なぜだろう。去年の九月に、あの階段で見かけたときのような激越な印象が、なぜ甦らないのだろう。あの時の涙の出るような美しさは、わたしの錯覚だったのだろうか?わたしはひどく裏切られたような感懐を抱いた。あの時、わたしをあれほどの歓喜の絶巓に立たせた彼が、今では、ちょっとした美男子がわたしの肌に指を触れた時と同じような惑溺しか与えてくれないのはなぜだろうか?わたしの方が変わったからなのだろうか?それとも、彼の方なのだろうか?それとも、諸々の環境の所為なのだろうか?
そういえば、彼の髪型は少し違っていた。あの時よりも、彼の髪は少し短くなったいた。あの時、彼の耳殻は髪に隠れて、確かに半分見えなかった。もし、彼が髪を再び伸ばし、あの九月の太陽の夏の名残りの目くるめくような陽光の中に佇んだら、あの時と同じような嘆称が、わたしの口から漏れるだろうか?


