千鶴子の歌謡日記

     テニスボールを追いかけて行く
    さわやかな恋 高原に芽生え
     テニスコートの木の影に咲く

  わたしもテニスしようかな
  相手になってくれそうだから
  一汗かいたらきっと友達
  そんな気がする軽井沢
  サイクリングに誘うおうか
  テニスシューズを履いている人
  あのひとに乗せてもらおう
  二人で乗れる自転車で
    さわやかな風 高原を巡り
     サイクリングの足に絡まる
    ささやかな恋 高原に咲いて
     サイクリングの道 埋め尽くす

  軽井沢を一巡り
  二人で行けば疲れはしない
  ペダルをこぐのもきっと楽しい
  忘れられない想い出に


五月十日

 彼の名前は白井研一。今日、彼は隣のコートで打っていた。はじめわたしは、彼と斜向かいの位置にいた。彼に見とれて、川村さん相手に何でもない返球をネットにかけた。ボールをみんなネットして、練習ボールがなくなると、最後の一球を川村さんがネットにかけると、わたしと彼女は、同時にネットにかけ寄った。わたしはもっと近くで彼を見たかった。彼の汗のにおいを嗅いでみたかった。丁度、その時、太陽が川村さんのコートの後方にあったので、
「ねえ、太陽が目に入って眩しいんだけど、コートを代わってくれる?」
とわたしは言った。スポーツサングラスの彼女は、彼女の後方にある太陽を見上げながら、
「いいわよ」
と快諾した。彼女は、
「ああ、それでミスが多かったのね」
というような顔をした。わたしは、太陽のせいでムルソーがピストルで人を殺した、アルベール・カミュの『異邦人』を思い出していた。頭の中に流れたメロディーは、一発屋の久保田早紀の『異邦人』だった。
 コートを交替してから、わたしは彼の姿がよく見えるように、なるべくベースラインの後方でボールをとらえるようにした。そして、彼のコートの方に、川村さんの返球がそれるように、初めに彼女のフォアサイドにドロップショットを落とし、次に彼女からの返球をバックサイドに強く長めに打ち込んだ。当然彼女は腰を入れることができないままで、バックで両手レシーブするので、ボールは隣の彼のコートの方に大きくそれた。そのうちの一つが、彼の足元をかすめた。わたしは、
「すみません」