千鶴子の歌謡日記

 美空ひばりの『川の流れのように』に詩の深みはない。万人に取り入ろうとする歌謡曲の宿命か。作詞家が大衆を小馬鹿にしている作詞の所作か?「でこぼこ道」という濁音の汚い詞を美空ひばりに歌わせるのは無礼だ。「でこぼこ道」というダサい言葉で、大衆に媚びようとした意図がみえみえだ。大衆に媚びることを拒否し、大衆を睥睨しようとした小椋佳の『めまい』には「ワイングラスの角氷」という、ありえないフレーズがある。なかにし礼は、
「ワインには氷は入れない」
と嘆息していた。ヒットすれば、なんでもいい。井上陽水も『リバーサイドホテル』がヒットした後で、
「川沿いリバーサイド」
という詞の無意味な重複に気付いたが、
「まあ、いいか」
と言って、訂正はしなかった。瀬川瑛子の『命くれない』も、「命が紅のように燃える」と「わたしに命呉ない?」の掛詞だというが、つまらない言葉遊びだ。でも、ヒットすれば誰も問題にしない。渡哲也の『くちなしの花』の、
「くちなしの白い花 おまえのような花だった」
は『からたち日記』の西沢爽が言うように、
「おまえはくちなしの白い花のようだった」
が正しい。主客が逆転していると言いたいのだ。そこで、水木かおるの『くちなしの花』のような歌が生まれる。

  汚れた水の中でも
   紫の愛を
    鮮やかに花咲かせる
     君は みずあおい
    俺の 想い出を
     うなじにくれと
      秋の 別れ宿
       君は 花開く

  世を拗ねぐれた俺でも
   待っててくれると
    書いた手紙に滲んだ
     愛は なみだ文字
    こんな 俺だから 
     なんにもできない
      それで いいと言う
       君が いとおしい

  今度逢うのは二年後
   待てとは言えない
    そんな心の切なさを
     君は 知らぬげに
    届く 愛しさは
     日めくりの手紙
      俺を 泣かすよな
       愛は 一途花

  見る人もない陰でも
   六ひらの愛を
    けなげにも花咲かせる
     君は みずあおい
    遠い 約束を
     ひたむきに守り
      俺を 待ちわびて
       君は 花散らす