千鶴子の歌謡日記

「保険でいくらカバーできるの?」
と心無い質問をする。わたしには、いたわり、慰めることはできても、そんなことを彼女に聞こうとも思えない。でも、弱者を狙う犯罪者が実在するように、そう言う人間は現に存在している。人類の長い歴史のなかで、そう言う人間は排除されただろうに、排除の途中ということだろうか?いつまでたっても戦争はなくならないし、犯罪もなくならない。いったいいつになったら、この世からこうしたことがなくなるのだろうか。そこで、星野哲郎の『花はおそかった』のような歌が生まれる。
  
   横断歩道を 渡った角の
    小さな花屋で 買った花束
     あなたが座ってた 机の上の
      小さな花瓶に 生けておきます
    去年の秋に 友達に
    なったばかりなのに
    あなたは もういない
    今年の春も 待たないで
    たった十五の冬に
    あなたは 召された
   あなたの様々な 面差しだけを
    心に描いて 生きて行きたい
     でも でも でも わたしは
      あなたの笑顔しか 想い出せない
  
   女の子ばかり 集まる店で
    有り金はたいて 買ったブローチ
     あなたが安らかに 眠りについた
      小さな花壇に 埋めておきます
    今年の冬に アルバイト
    やっと買い求めた
    わたしの贈り物
    誕生日さえ 迎えずに
    たった十五の朝に
    とわの眠りに
   あなたの色々な 瞳の動き
    心にいだいて 生きて行きたい
     でも でも でも わたしは
      あなたの笑顔しか 想い出せない
  
   あなたの愛らしい 仕草と言葉
    心で抱きしめ 想い出したい
     でも でも でも わたしは
      あなたの笑顔しか 想い出せない

一月十日

 ナタリー・ウッドの主演映画で忘れられないのはエリア・カザン監督の『草原の輝き』だ。ウィリアム・ワーズワースの詩の意味を子どものころ理解できなかった。言葉としては理解できても、その詩によって、表現しようとした心情までは、「眼光紙背に徹す」ことはできなかった。