嗚呼、二度と戻らない、かかる日のあなたの逞しい膂力、かの魅惑的な唇の動き、その唇から漏れる低い声音、何にもまして小鳥のようなわたしの心を締め付けるのは、あの、生命力にあふれた瞳、でも、その瞳はあらぬ方を向いている。わたしの目と出会うと同極の磁石のように横を向く。そして、嫌悪と蔑視にまみれた嗤いに歪む。その精悍な面立ちは、冷淡な表情でわたしを奈落の底へ突き落す。
諦めるには、余りにもわたしの偶像でありすぎた。いまでは、すでに、グレアム・グリーンの『落ちた偶像』。忘れえるには、余りにもわたしの愛を使い果たした人。今、わたしは、絶望的な悲観の中で、それでもひたすらに、あなたの幸福を祈ります。浅草あたりを散策すれば、いささかでも、心が癒されるかも知れない。古い街には、慰めのフトンチッドが充満している。
でも昨日の浅草の思い出が生々しい。そこで、久仁京介の『下町純情』のような歌が生まれる。
金魚 浮き草 鉢売りが
町に初夏 告げながら
水を撒きつつ歩いて行くよ
水槽の冷ややかな水に
頬よせる君の瞳が
とても とても 涼しげだ
竿屋 青竹 竿売りが
町に秋風 連れながら
竿を引きつつ歩いて行くよ
青竹の爽やかな肌に
口づける君の瞳が
なぜか とても 淋しげだ
三社祭の御輿が揺れる
横笛や太鼓に送られて
うら寂しい隣町に
君は嫁いで行った
羅宇屋 羅宇竹 羅宇替えが
町の初雪 踏みながら
煙靡かせ歩いて行くよ
門松の華やかな路地に
ふと伏せる君の瞳が
なぜか とても 悲しげだ
初詣の晴れ着が揺れる
御守りや破魔矢を抱く君に
今年こそは幸せにと
僕は祈って泣いた
一月七日
ここに二筋の道。狭く白い道と広く黒い道。高村光太郎の『道』と異なり、後ろにではなく、わたしの前に拡がる。
諦めるには、余りにもわたしの偶像でありすぎた。いまでは、すでに、グレアム・グリーンの『落ちた偶像』。忘れえるには、余りにもわたしの愛を使い果たした人。今、わたしは、絶望的な悲観の中で、それでもひたすらに、あなたの幸福を祈ります。浅草あたりを散策すれば、いささかでも、心が癒されるかも知れない。古い街には、慰めのフトンチッドが充満している。
でも昨日の浅草の思い出が生々しい。そこで、久仁京介の『下町純情』のような歌が生まれる。
金魚 浮き草 鉢売りが
町に初夏 告げながら
水を撒きつつ歩いて行くよ
水槽の冷ややかな水に
頬よせる君の瞳が
とても とても 涼しげだ
竿屋 青竹 竿売りが
町に秋風 連れながら
竿を引きつつ歩いて行くよ
青竹の爽やかな肌に
口づける君の瞳が
なぜか とても 淋しげだ
三社祭の御輿が揺れる
横笛や太鼓に送られて
うら寂しい隣町に
君は嫁いで行った
羅宇屋 羅宇竹 羅宇替えが
町の初雪 踏みながら
煙靡かせ歩いて行くよ
門松の華やかな路地に
ふと伏せる君の瞳が
なぜか とても 悲しげだ
初詣の晴れ着が揺れる
御守りや破魔矢を抱く君に
今年こそは幸せにと
僕は祈って泣いた
一月七日
ここに二筋の道。狭く白い道と広く黒い道。高村光太郎の『道』と異なり、後ろにではなく、わたしの前に拡がる。


