千鶴子の歌謡日記

 嗚呼、愛が欲しい。雪の中でも、寒風の最中でも、決して寒さを感じさせないような、燃え滾る愛が。
 わたしは二十歳。わたしの肌の艶、瞳の輝き、髪の色艶、――すべてが十八をピークとして、褪せてきている。わたしはやがて年を取るのだろう。高校時代は、毎日やっていたテニスも、今は週一回。食事を一日二食に切り詰めているけれど、おなかの贅肉はなかなか取れない。わたしは、このまま、本当の恋も知らずに年老いて祖母や母の様に醜くなって行くのだろうか?わたしの、この心のうちで燻り続けている生命の炎が、愛によって熾烈に燃え盛ることは、ないのだろうか?
 多くの女の人がその渦中にある恋愛は、わたしには一生与えられないものなのだろうか?わたしより美しくない人、わたしより鈍い感受性を持った人が、あれほど容易に享受している恋愛を、なぜわたしだけができないのだろうか?
 遠い夜景が少しずつぼやけてくる。熱い涙があふれ、嗚咽がのどを締め付ける。追憶の扉を絶え間なくたたく雨音。北欧の白夜の妖精のようにわたしの心に忍び込むヴィヴィアン・リーとロバート・テイラーが共演した『哀愁』。炎のような泪が頬を伝う。寂寥の奈落に転落した哀れなわたし。
 嗚呼、水滴の天使、得難き天の便り、空から落ちてくるアイドル。キャロル・リード監督の『落ちた偶像』のようなわたしを助けて。そして、わたしを慰めて。嗚呼、雨よ、天の泪の使徒、潤いの兵士たちよ。その熱い天使の涙で、凍り付いて行くわたしの心を溶かしておくれ。ああ、雨よ、お前はわたしのかつての恋人。そして、水木れいじの『望郷しぐれ』のような歌が生まれる。

  ぽつん ぽつんと 雨だれが
  心の扉をノックするけど
   胸の秘密を開いて見るには
    まだ まだ 心寒い
     雨だれが恋人
     夜降るときには耳元で
     深夜放送
     添い寝も厭わず
     慰めてくれる

  おいで おいでと 催促の
  手紙を幾度も 送ってくるけど
   飾る錦もない わたしだから
    まだ まだ 帰れない
     雨だれが 友達
     昼降るときには屋根の上
     トタン叩いて
     どうした がんばれ
     元気がないぞと

     雨だれが 恋人
     街降るときには腕の中
     頬をすり寄せ
     あなたが好きと