窓を開けると、街角を賑わした恋人たちも去って、今は静かに絹糸のような雨がしとしととわたしの心を濡らす。ポツン、ぽつんと寂しげな滴の囁き、その身を削るような響きに独り者は悩まされる。嗚呼、恋人が欲しい。わたしのすべてをすっぽりと温かく包んでくれる人が…。
　今、一組の若い男と女が、ほの暗い街路灯の下を仲良く一つの傘におさまり、歩いて行く。彼らの愛がどれほどちっぽけなものであろうとも、わたしはそれに憧れる。影だけが二人の存在を示し、円い傘だけがＬＥＤ照明に浮かび上がって動いて行く。頬を撃つ寒風、ひとり身にはなんと冷たい風だろう。冷たくなった頬を温めてくれる人がいると思えば、寒風もむしろ心地よく感じられるのだろうに。
　忍ぶ様に、そっと静かに、そしていつの間にか、遠藤周作の『沈黙』のうちに凝縮された静寂が、ひっそりと雨の衣を纏い、つぎからつぎへと巷に舞い降りてくる。暗い風情があたりを閉じ込めかける。夜のとばりのような蕭条の雨が、吉行淳之介の『闇の中の祝祭』のように、なぜか心を締め付ける。そこで、阿久悠の『雨の慕情』のような歌が生まれる。
　
　　何で雨が　降るのでしょ
　　　誰か呟く　夜の街
　　どうせ今夜も　待ちぼうけ
　　　雨はあなたの　空涙
　　　そんな冷めた　恋ならば
　　　　明日からいっそ　忘れたい
　　　　　雨　雨　雨
　　　　　私の泪を　海に流して
　　　　　　岬を　艀を　沖行く船を
　　　　　　　包み込んで　土砂降り
　　　今日も　雨が降る
　
　　今日も雨が　降っている
　　　雨に打たれて　諦めな
　　耳のそばで　雨だれが
　　　能書き垂れる　気がします
　　　そんな冷めた　愛ならば
　　　　港の波に　流したい
　　　　雨　雨　雨
　　　　私の未練を　沖に流して
　　　　　あなたを　私を　嘘咲く街を
　　　　　　包み込んで　土砂降り
　　　今日も　雨が降る
　
　　そんな冷たい　人ばかり
　　　ネオン彩る　夜の街
　　どうせ私は　雨女
　　　流す涙は　嘘の雨
　　　どうせいつも　渡り鳥
　　　　海は嘘の　言い訳ね
　　　　雨　雨　雨
　　　　私のおろかさ　早く流して
　　　　　明日を　私に　くれない街を
　　　　　　叩き壊して　土砂降り
　　　今日も　雨が降る