ほんとは そうでは ないけれど
口をきくと誤解だけ
君はほんとは優しい 愛する男がここにいる
君はほんとは綺麗だ 愛したい男がここにいる
君はほんとは優しい 愛する男がここにいる
君はほんとは綺麗だ 愛したい男がここにいる
十月二十八日
彼と学生食堂で奇遇。ほんの5分くらいの間だったのに、わたしの心は落雁のように完全に粉々に砕けてしまった。そして、曖昧模糊としていた、彼という一つの抽象が、完膚なきまでに暴き出されて、具象化された。わたしは、高熱に魘された様に、その時の彼の印象に陶酔し、その余韻の中で朦朧としている。
彼は、長テーブルを一つ隔てた向こうに男友達と二人で腰かけていた。ブルーのカジュアル・ワイシャツの上に黄緑のセーター、カーキ色のパンツを身につけていた。その時の表情をよく思い出せない。なぜだろう。わたしは、バッグから手鏡を取り出し、身を少し斜めにして、あれほど彼を凝視していたのに。覚えているのは、太い眉と長い睫毛と深い瞳と、少年のようなあどけない唇、そして広い額と長い髪――それだけ。でも、それらがどんな配置にあったのか、よく思い出せない。鮮やかに思い出せるのは、その時のわたしの胸の苦しさと、早鐘のような胸の鼓動と、そして小刻みな震えの止まらなかった手鏡。こめかみの脈の響きが、わたしには囁くように聞こえた。そして、食べかけていた野菜サンドイッチがのどに詰まって、それ以上食べられなくなった。ひと言も口を聞いたこともなく、わたしのことなど少しも知っていないあの人を、わたしは果たして、わたしの足元に跪かせることができるだろうか?
口をきくと誤解だけ
君はほんとは優しい 愛する男がここにいる
君はほんとは綺麗だ 愛したい男がここにいる
君はほんとは優しい 愛する男がここにいる
君はほんとは綺麗だ 愛したい男がここにいる
十月二十八日
彼と学生食堂で奇遇。ほんの5分くらいの間だったのに、わたしの心は落雁のように完全に粉々に砕けてしまった。そして、曖昧模糊としていた、彼という一つの抽象が、完膚なきまでに暴き出されて、具象化された。わたしは、高熱に魘された様に、その時の彼の印象に陶酔し、その余韻の中で朦朧としている。
彼は、長テーブルを一つ隔てた向こうに男友達と二人で腰かけていた。ブルーのカジュアル・ワイシャツの上に黄緑のセーター、カーキ色のパンツを身につけていた。その時の表情をよく思い出せない。なぜだろう。わたしは、バッグから手鏡を取り出し、身を少し斜めにして、あれほど彼を凝視していたのに。覚えているのは、太い眉と長い睫毛と深い瞳と、少年のようなあどけない唇、そして広い額と長い髪――それだけ。でも、それらがどんな配置にあったのか、よく思い出せない。鮮やかに思い出せるのは、その時のわたしの胸の苦しさと、早鐘のような胸の鼓動と、そして小刻みな震えの止まらなかった手鏡。こめかみの脈の響きが、わたしには囁くように聞こえた。そして、食べかけていた野菜サンドイッチがのどに詰まって、それ以上食べられなくなった。ひと言も口を聞いたこともなく、わたしのことなど少しも知っていないあの人を、わたしは果たして、わたしの足元に跪かせることができるだろうか?


