千鶴子の歌謡日記

 松本さんに吐かせた彼についての情報はこうだ。白井ケンイチは、秀才で品行方正。卒業式には、いつも答辞を読んだという。中学生のときに、大使館関係の仕事をしている父親と一緒に英国に行って、三年間をそこで過ごした。だから、英語は抜群。学部は経済。身長は178センチ、グライダーに搭乗し、A級ライセンスをとろうとしていて、クラリネットを吹く。父親の年収は二千万。庭の広い2百坪の屋敷に住み、部屋を二つ持っている――寝室と勉強部屋。スポーツ歴は多彩で、テニス、バスケット、ラグビー、サッカー、クリケット、乗馬等々。中でも、サッカーが得意で、高校時代に試合をしたとき、対戦相手の高校の女子高生が彼の応援をしたという。彼に好意を持っている女の子は多いが、誰一人として彼の家に招待された女の子はなく、さりとて彼は女の子に対して無粋ではないから、いつも多くの女の子がとりまいているが、本当の恋人はいないらしい。
 彼女は、もっと話したと思うが、わたしの記憶が追い付かず、それだけしか覚えていない。彼女の言うことだから、盛り付けを少し割引きするフィルターをかけなくてはならないと思うけど、もし、本当だとしたら、白井ケンイチという男は、化け物に近い。そんな男が、いるはずがない。額面の半分は、脚色と嘘と見たほうが本当らしい。
 それにしても、白井ケンイチという男は、マーガレットや少女フレンドに登場する男の子のように、大きな瞳に星が輝く、宝塚の様に手塚治虫の『リボンの騎士』のように何とマンガチックな男なのだろう。なんとなく、この男の周りには、岡田有希子の身に降り注いだ不幸の予感が漂う。そこで、殉愛の歌が生まれる。
 
   逢ってはいけないと
   あなたは言うのね
    逢えば二人が
     不幸になるから
    だけど
     あなたに逢いたい
      心が乱れる
     わたしはいつでも
      あなただけ
     電話がなるたび
      心がときめく
     わたしはあなたの
      とりこなの

   逢う日はいつでも
   人目を気にして
    声に出したら
     誰かに聞かれる
    だけど
     あなたに告げたい
      胸のときめきを  
     わたしはいつでも
      ふるえてる
     あなたに逢えれば