「これが、確認事項。開いた時間に書いといてくれる?」
そう言って、先生は三枚ほどのアンケート用紙みたいなものを差し出して、部屋を出た。
母も、先生に用事があるのか「のんびりしてて」と笑って言ってしまった。
アンケートの内容はいたって簡単で、アレルギーはあるか、重い病気をしたことがあるか、みたいな誰でも一度は答えたことのありそうな質問ばかりだ。五分もしないうちに終わりそうだったが、右手が動かせないことを思い出す。
私は右利きなので、ペンを握るのにこの硝子の手は不便だった。左手で何とか握ることは出来たのだが、字はめちゃくちゃだった。
アンケートがマーク式だったことに心から感謝した。
改めて、資料を見返す。
なぜこんなにも、硝子化の進行速度に差がつくのか不思議に思えたし、そのことが余計に私の不安を煽った。
いつ死ぬか分からないという悩み、不安は誰もが抱えているものだろうけど、その誰かが考える死は私より遠いところにあるものだろう。少なくとも、二週間後ではない。少し遠いところにあるからこそ真剣に向き合えるのであって、こうまでも近くにいられると向き合うどころではない。
硝子化が始まって、まだ半日しかたっていない。最低でも、あと一週間は動いていられると考えてもいいのだろうか。
この漠然とした恐怖と付き合っていかないといけないと思うと、心は沈んだ。
「早め」に何かしたいことは見付けておく必要がある。
昨日の夜から、ずっとその議題が頭にあった。思いのほか生き急ぐ必要があると知ればなおさら。
アンケートに書き込むために、机に置いてあったペンを手に取る。そして、資料を裏返して思い付いたままに書いてみることにした。
やりたいこと
・猫カフェにいきたい
・ピアスをしてみたい
・髪を染めてみたい
・スイーツバイキングにいってみたい
ふと、眩しさが増して、手を止める。
窓の外を見れば、太陽がちょうど雲から出てきたところだった。ほとんど真上にある太陽を見るに、もう十二時ごろなのだろう。
そのとき、ノックが三回聞こえて、返事をする前に看護師さんがドアを開けた。
私は、小さすぎる夢を隠そうとした。
しかし、とっさに動いた硝子の右手は摩擦が少なく、紙を手に取ることが出来ないどころか、机の上を滑り落ち、看護師さんの足元へと届いた。
そう言って、先生は三枚ほどのアンケート用紙みたいなものを差し出して、部屋を出た。
母も、先生に用事があるのか「のんびりしてて」と笑って言ってしまった。
アンケートの内容はいたって簡単で、アレルギーはあるか、重い病気をしたことがあるか、みたいな誰でも一度は答えたことのありそうな質問ばかりだ。五分もしないうちに終わりそうだったが、右手が動かせないことを思い出す。
私は右利きなので、ペンを握るのにこの硝子の手は不便だった。左手で何とか握ることは出来たのだが、字はめちゃくちゃだった。
アンケートがマーク式だったことに心から感謝した。
改めて、資料を見返す。
なぜこんなにも、硝子化の進行速度に差がつくのか不思議に思えたし、そのことが余計に私の不安を煽った。
いつ死ぬか分からないという悩み、不安は誰もが抱えているものだろうけど、その誰かが考える死は私より遠いところにあるものだろう。少なくとも、二週間後ではない。少し遠いところにあるからこそ真剣に向き合えるのであって、こうまでも近くにいられると向き合うどころではない。
硝子化が始まって、まだ半日しかたっていない。最低でも、あと一週間は動いていられると考えてもいいのだろうか。
この漠然とした恐怖と付き合っていかないといけないと思うと、心は沈んだ。
「早め」に何かしたいことは見付けておく必要がある。
昨日の夜から、ずっとその議題が頭にあった。思いのほか生き急ぐ必要があると知ればなおさら。
アンケートに書き込むために、机に置いてあったペンを手に取る。そして、資料を裏返して思い付いたままに書いてみることにした。
やりたいこと
・猫カフェにいきたい
・ピアスをしてみたい
・髪を染めてみたい
・スイーツバイキングにいってみたい
ふと、眩しさが増して、手を止める。
窓の外を見れば、太陽がちょうど雲から出てきたところだった。ほとんど真上にある太陽を見るに、もう十二時ごろなのだろう。
そのとき、ノックが三回聞こえて、返事をする前に看護師さんがドアを開けた。
私は、小さすぎる夢を隠そうとした。
しかし、とっさに動いた硝子の右手は摩擦が少なく、紙を手に取ることが出来ないどころか、机の上を滑り落ち、看護師さんの足元へと届いた。