これが、僕が2年間付き合っていた彼女と別れた経緯である。カニクリームに助けられてきた人生だったけれど、まさか、カニクリームに幸せを妨げられるとは……
 いや、違うな、これはカニクリームのせいではない。カニクリームは悪くない。悪いのは、牛肉コロッケの方だ。2位だったくせに、彼女の心を奪いやがって。

 僕は、自らを肯定するためだけに、スーパーでカニクリームと牛肉コロッケを1つずつ買って食べた。カニクリームの方が60円高かったが、売れているのはカニクリームの方だった。テレビ番組のランキングはやはり、嘘ではなかった。

 どちらも何もかけずに食べた。ソースや醤油で誤摩化さず、コロッケそのものの味で、判断したかったから。

 カニクリームは美味しかったが、牛肉コロッケは僕の口には合わなかった。
 これから牛肉コロッケは、僕の中で一番嫌いな食べ物になると思う。コロッケの中でじゃない、全ての食べ物の中で。ピーマンよりゴーヤよりしいたけよりも、牛肉コロッケが嫌いだ。

 彼女が大好きな食べ物が、僕は大嫌いになる。
 彼女のことも大嫌いになる。

 だってさ、波長の合わない彼女に、何の魅力もない。

 ――だけどなぜだろう?
 彼女のことを嫌いになったはずなのに、牛肉コロッケを食べ終えた僕は、部屋の中で1人、静かに泣いていた。