身体は疲れているのに、頭が冴えきってしまい、眠れなかった。
夜中ずっと、心臓が嫌な拍動を刻んでいた。


黒い髪、漆黒の装束――全身黒ずくめで、赤く光る瞳。
さっきの男の人……いや神様は、多分死神だ。


どうして私のところに――。
ゾクッとするけれど、その目的は考えるまでもない。
死神とは冥府を司る神で、死を迎える予定の人間の魂が現世に彷徨い続けて悪霊化するのを防ぐため、冥府へ導くのが役目。
私の命を狩りに来た、それしかない。


思考が動き出すと、原因不明の左目の痛みも、そのせいかと理解が繋がった。
だけど、去り際の言葉がわからない。
あれは、どういう意味だろう……。


私の考えが正しければ、私はきっと、長くは生きられない。
こうして考えている今も、すでに余命なのだろう。
なのに、どうしてだか『怖い』とは思わず――。


結局一睡もできないまま、朝を迎えた。
神社の朝は早い。
父の出勤に合わせて、二宮家の朝食は毎朝午前六時だ。
ダイニングに降りると、いつもと変わらない朝の食卓の光景が、視界に飛び込んできた。