この世のものとは思えないほど、綺麗な顔をした人だ。
癖のない真っ黒な髪は襟足長めで、前髪も目元にかかっている。
その向こうに覗く赤みがかった瞳が、鈍く光る。


「だ、れ……」


早鐘のような鼓動のせいで、問いかける声が喉に引っかかった。
だけど、心の中で、聞くまでもないとわかっていた。
つい一瞬前まで、部屋には私以外誰もいなかった。
目の前まで来ていたのに、気配を全然感じなかった。
こんな現れ方ができるのは、人間じゃない。
『神』だ。


ここ、神御座町は、人間と神が共生する街として、古くから知られている。
神社の娘の私は、多分他の人より幾分神に近いところにいる。
それでも、実際に姿を目にしたのはこれが初めてだった。


彼の赤い瞳を吸い込まれるように見ているうちに、左目の痛みは鎮まっていた。
彼は、瞬きを忘れて大きく目を瞠る私から手を引っ込め、絹擦れの音すら立てずにスッと立ち上がった。


痩せた、背の高い男の人だ。
彼は、呆けて言葉を忘れる私を、眉根を寄せて鷹揚に一瞥し――。


「俺の神力が尽きるまで。それがお前の余命だ」

「っ……!」


先ほどよりも強い風が立ち、私はとっさに目を瞑って、頭を抱え込んだ。
耳元でゴーッと唸るような風がやみ、恐る恐る目を開ける。
そこにはもう、誰もいなかった。