「? 千雅?」

「ええと……水葵、あのさ」


呼びかけた声が被った。
私が譲って口を噤むと、千雅が思い切ったような顔をして、一歩前に踏み出してくる。


「水葵、来週誕生日だろ、十八の」

「うん?」

「映画でも行かない? 祝ってやるから」

「……わざわざ隣町まで?」


私はギョッとして聞き返した。
高校から徒歩圏内に、街一番の繁華街があるけど、映画館なんて高尚な娯楽施設は、バスに乗って一時間、隣町まで行かないとない。
千雅はグッと詰まってから、気を取り直したように胸を張る。


「もう春休みだし、別にいいだろ? お前、進学しないから暇じゃん」

「でも、神社の手伝いしなきゃ」

「誕生日くらい、休ませてもらえよ」


やけに押しが強い彼に怯み、私は『うーん』と考えた。


「……一応、お父さんに確認してみる」


そう答えると、千雅は目に見えてホッとした顔をした。


「じゃ、近くなったらLINEする」


私の父がダメとは言わないと決め込んでいる彼に、苦笑した。
千雅の父親はこの街で四期目の町長で、宮司の父とは公使ともに付き合いがある。
それもあって、子供の私たちも、生まれた頃から家族ぐるみの関係だ。
確かに、千雅と一緒と言えば、ちょっと遠出でも父は許可するだろう。


「うん。じゃあ、また」


私は今度こそ手を振って、彼と別れ、参道から右の脇道に進んだ。