千雅は怯み、条件反射といった感じで手を引っ込めた。
それでも答えを求めて目を泳がせ、私の上で留める。


「みず……」

「千雅君。死神様は、水葵の命の恩人なんだよ」


私の方に踏み出す彼に、父が静かに答えた。


「え……?」

「彼が水葵を救ってくれたから、私たちは十八年もの間、娘と幸せに暮らしてこれた。全部、死神様のおかげなんだ」


父の説明に、母がグスッと鼻を鳴らして同意を示す。
眦が裂けんほど目を見開き、絶句する千雅に、私はぎこちなく微笑みかけた。


「千雅。……また会おうね」


胸に込み上げるものを感じ、きゅっと唇を結ぶ。
顔を背け、隠れるように、白夜にしがみついた。


「死神様。娘をよろしくお願いします」


父と母が声を揃え、腰を直角に折って頭を下げた。


「無論。では行くぞ、水葵」


頭上から降ってくる声に、私は小さく頷く。
そして、顔を上げた両親に、まっすぐ目を合わせた。


「ありがとう、お父さん、お母さん……」


最後まで、二人に伝わっただろうか。
言い切ったかどうかのタイミングで、耳元で唸る風にビクンと身体を強張らせ――。


「っ……水葵っ……!!」


千雅が叫ぶ声を鼓膜に焼きつけ、固く目を閉じた。