私は、二宮(にのみや)水葵。
この街の氏神、地神を祀る神社を代々守り継いできた一族の生まれで、父は現宮司だ。
私の家は街の北の外れ、神社の敷地内、参道から右に折れた道の奥にある。


三十分ほど歩いて、神社に着いた。
舗装された道路から逸れるとすぐ、大きな赤い鳥居が見える。


「じゃ、またね」


細かい玉砂利が敷き詰められた道に足を踏み入れてから、千雅を振り返った。
なのに彼は、「いや……」と頭を掻く。


「あ。そうだ。ついでに、本殿にお参りして帰ろうかな」


思い出したようにポンと手を打つ彼に、私は首を傾げた。


「また? 先週も……」

「別にいいだろうが。何度詣でても」


ムキになって言われて、ひょいと肩を竦める。
まあ、私もそうだけど、この街で生まれ育った大半の人が信心深い。
千雅はちょっと前まで大学合格祈願で足繁く通っていたし、今度はお礼参りか。


私はそう納得して先に進み、鳥居の前で足を止めた。
千雅も隣に並んだ。


鳥居は、結界。
神様が住む世界への入口と言われる。


二人揃って一礼してから鳥居をくぐり、右に寄って並んで歩き出した。
真ん中は正中。神様の通り道だ。
参道の中ほどまで行って、私は足を止めた。


「じゃ」


境内には行かないから、お参りに御社殿に向かう千雅とはここでお別れだ。
千雅は「ん」と頷いたものの、やはりなにか言いあぐね、ポリッとこめかみを掻く。