白夜は、狐につままれたような顔つきをしたけれど。


「……小町、後でしばく」


理解が通じたのか、恐ろしく冷酷な表情に変わる。
底冷えしそうな低い声で言い捨て、パキパキと指を鳴らす彼に慌てて、私は飛びついた。


「っ、ダメ! 白夜っ! 小町はなにも言ってない! 私が見抜いただけだからっ」

「お前にそんな高尚な真似、できるわけないだろうが。俺ですら無自覚だったってのに……」

「え?」

「あ」


口が滑ったという感じで手で覆い、白夜がつっと目を逸らす。
赤い瞳が逃げていく様を、私は超至近距離から見ていて……。


「っ!」


その近さに焦って、大きく飛び退いた。
勢い余ってドスンと尻もちを突き、「痛っ!」と叫んで顔をしかめる。
それを、白夜が「ふん」と鼻で笑った。


「人間如きが、図に乗るからだ」


冷笑が美しくて悔しいけれど、それ以上に胸が温かいから、いつもの調子で毒づけない。
私が言い返さずに俯いて黙ると、白夜も唇を結んで明後日の方向を向いた。


私たちの間の余韻がくすぐったいけど、なんとも言えず心地よい――。
そんな感覚を、彼と共有できただろうか。