「……何故泣く」

「っ、え?」


当惑気味に問われ、私はハッとして顔を上げた。
途端に、なにか温かいものが頬を伝う。
彼に言われて、私は初めて、自分が泣いていることに気付いた。


涙で曇った私の瞳を、白夜が怪訝そうに覗き込む。
彼の赤い瞳に焦点が合い、私は弾かれたように自分を抱きしめた。


「見ないで! 読んじゃダメ!」


白夜が『何故』と問いながら、自分で答えを見透かそうとしていると察したせいだ。


「ダメ、今は本当にダメっ。ぐちゃぐちゃで、自分でもわからないの!」


激しくかぶりを振る私を、白夜は途方に暮れた様子で見つめていたけれど。


「…………」


なにも言わず、私から目を逸らす。
そうして、なにもなかったように湖に顔を向けた。
凪いだ水面を見遣る綺麗な横顔に、私はひくっと喉を鳴らす。


今、はっきりとわかる。
この死神は、とてもとても優しい人だ。
下手な人間よりよっぽど温かくて、海のように広い心を持っている。


――なにか、私にできることはないかな。
この、怖くて優しい、孤独で寂しい死神のために、私になにか……。


自分の中で、白夜という死神への理解が確定して、胸がきゅんと疼いた。