白夜は私を、大きな湖の畔に誘った。
幽世の空は、現世では深夜に近いこの時間でも白んでいる。
そのせいか、蜃気楼の中にいるような幻想的な風景が、視界いっぱいに広がる。


「白夜……」


私は空を見上げて独り言ちた。


「なに」


一歩前を歩いていた白夜が振り返る。


「え? あ」


私はきょとんとしてから、首を横に振った。


「違うの。その……白夜みたいだなあって」

「……ああ」


私がなにを意図したか合点した様子で、彼も喉を仰け反らせて白い空を仰ぐ。
そして、ふと思いついたように、


「ほら」


黒い羽織を脱ぎ、私にポイと放った。


「っ、え?」


私は反射的にキャッチしてから、彼に目線を戻す。


「俺を呼んでおいてパジャマって。お前、女として自覚足りないんじゃないか?」

「!」


皮肉げにからかわれて、私はとっさに自分の身体を見下ろした。


「着てろ。寒くはないだろうが、いくらお前でも、愚浅な下級霊が寄ってこないとも限らない」


相変わらず、彼の口を突いて出るのは、私を小馬鹿にした腹立たしい言葉だけど……。
私は彼の羽織に袖を通し、胸元で袷を握りしめてから、